恋愛音痴と草食
もうどれくらいたっただろう。博之は外していた腕時計に目をやると日付が変わっていた。結子はまだ陽気かつ元気だった。
「…つーか、奈良橋ってなんであんたになつくわけ?」
結子が首をかしげ、ジーッと博之の顔を見る。
「緊張しているんじゃないですか?佐倉さんに怒られるって身構えたりして」
当たり障りないよう博之は考えて返答したつもりだったがあまり気に入らなかったらしく結子はケ!と吐き捨ててから
「なんじゃそら!怒られるようなことするから私が怒る羽目になるんじゃんか!」
と、グイッとワインを飲んだ。
備え付けのガラスのコップに赤ワインをトポトポ…と自ら手酌する彼女を博之は黙ったまま眺めていた。
もうそろそろとめた方がいいのかもしれないと理性が告げる。でも、自分の本心にある欲はこの先にあるとある変化を待ち望んでいる。
この先の…佐倉さんが無自覚な艶っぽくなる時を。
いつもより酔った彼女はトロンとした目でフンワリと笑いかけてくる。それは何故かドキンとする。いつになく柔らかく見える彼女に包み込まれてみたくなる。
……その肌にじかに触れて感じてみたくなる。
博之は己の愛欲を自覚している。結子に知られてしまったら表明上では変わらずとも内心博之をどう見るようになるのだろう。それが怖い。
だから実際に何か行動する気はない。でも、彼女が深酒することは滅多にないからなかなか見られないのも事実。
…彼女が心を許した人でないとその姿を見ることはない。その証拠だから博之は本心から彼女のガードが緩む時を待っている。
「…んー。何てゆーのかなぁ」
言葉を探しながら結子は博之に吐露する。