恋愛音痴と草食
「今の私の位置ってさ、前にキミを指導していた時とはビミョーに違うのね」

違いの意味を博之は正しく理解できた。

「俺の時は佐倉さんが直接指導にあたってくれましたからね」

「ん」
コクンと結子が首を縦に振る。

「そーなの。だからキミとかなら私のやり方ってゆーか考え方や方向性がある程度反映されてると思うのね」

「俺は佐倉さんの一番弟子なんですから当然といえば当然ですよ」
…あなたの仕事っぷりなら熟知している。博之は口には出さずに続けた。

「そだよ。だから私はいっちばぁんキミを信頼してるんだよ」
 目をトロンとさせてニコニコ笑う、その姿がたまらなく博之には可愛く見える。
…会社では真面目に後輩や同僚を叱りとばすわ男言葉すら平気で使いまく、り挙げ句姉御キャラとなり怖がられる人なのに、こんなにホワンと(三十路半ばなのに)無防備にあどけなくなる。
…そのどちらも佐倉さん。

 佐倉さんは彼氏に認定する男にはあとどれだけ秘密の顔を見せるんだろう。博之はその架空の男にさえ嫉妬してしまいそうな自分に嫌気がさしてくる。

「期待に答えられるよう頑張りますけどね」
ただ口から出るのはいつもこんな感じだ。もっと気の利く返し方ができたらと我ながら思わないでもない。

 結子は加賀見のそういったところが分かっているから頼むね と実に気楽に返した。

「奈良橋君の直接指導に今後もう少し関わるつもりです」
 奈良橋の直接指導には加賀見がサブで加賀見の後輩がメインだったが、最近はその後輩にミスが増えてきている。奈良橋ともうまくいっていないらしく見かねて加賀見が橋渡しした経緯もある。

「そなの?じゃあ、あたしはビシッと指摘する役目になるのね」
だからちゃんとフォローしなさいよと結子は博之に言っているのだ。

「……なぁんか悔しいなぁ」

ジットリとした目で結子がこちらを見てきた。
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