恋愛音痴と草食
 何と言えばよいのか分からず沈黙する博之から目をそらしたまま結子がポツリと言った。

「あたし、そう言われてるんでしょ?」

 今期の新人の間で佐倉さんにはそのあだ名がついているらしいとは聞いていたが、本人の耳にも入っていたとは。でも、どう慰めたらよいのかいまだ見つからない。

「仕方無いよね。一回り違うんだし」
 努めて明るく言う結子が泣いているように博之には感じられた。

「…彼らは佐倉さんの良さを知らないだけです。何も知らない奴らをあなたが気にすることないですよ」

博之はそうバッサリ切り捨てた。

びっくりしたように結子が博之を凝視した。

「何ですか」

「…キミがそんな風に考えてるなんて知らなかった」

「…酒に酔ってるんですよ、きっと」
 もちろんそこまで酔ってない。思いっきり酔ったらいつもより饒舌になるかもしれないけど、それより万が一にでも本能だけの男になったら取り返しがつかない。当然摂取はおさえぎみだ。

だが、真に受けて結子が博之を心配そうに見た。

…ドクン。

また博之は不意にたかまった鼓動を感じる。

「大丈夫?」
 こうやってこの人はいつだって声をかけてくれる。

「…大丈夫じゃないです」
 大丈夫です、と答えるつもりだったのに何故かそう答えていた。

「だ、駄目じゃん」
 言いながらガラスに冷水を汲み博之に渡して見守る結子を博之はぼんやり眺めていた。

「具合悪い?休も?」
結子がベッドから立ち博之に譲る。

 ホントにそこまで酔ってない。だが、結子が自分のために心を砕いてくれていることが嬉しくて博之は甘えてしまう。博之はすすめられるまま本日結子が使うはずのベッドに横になった。

 横になりながら目を閉じるとフッと睡魔が襲いかかる。さすがに悪いと思って身を起こしかけると結子がベッドサイドからそれを制し博之の両目の上にふんわりと手のひらをあてて「いいから寝なよ」と声をかけた。

 はじめはびっくりして断ろうとしていたが、本心がこのサプライズに興奮していて何とも内心ドギマギして口に出せない。

柔らかい。

 結子の手を嫌でも実感する。博之は女性経験がない。女性の肌の柔らかさときもちよさをどこかうっとりしながら堪能する。
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