どこからどこまで

「海のばかやろー!」

 さて、今日の予定はこうだ。

 夜、入浴と夕食を済ませる。夜中に出発。車を2、3時間走らせて海に到着。朝日を拝む。海の近くの水族館が開く時間まで睡眠をとったり朝食をとったり遊んだり。水族館に行く。テキトーにぶらついたり昼食をとったりして帰る。

 と、まあテキトーなものである。

 ほぼ漠然とした要望しか言わなかったにもかかわらず、いつのまにか行き先もその行き方もしっかりと調べてくれていた翔ちゃんには頭があがらない。

 さすがは翔ちゃん。頼りになる。

 薫はもちろん、あたしも運転免許は持っていないため、当然運転は翔ちゃんに任せっきりになってしまう。あたしが免許を持っていたところで車の保険の関係で運転を替われないということもあるにはあるのだが。

 兎に角すっかりお世話になってしまうため、今日のあたしは張り切っていた。

 昨日は薫にあれこれ言われながらも早めにぐっすりと寝られたおかげで頭もスッキリしている。

 いつものように家事をするのはもちろんのこと、今日は夕食も自分が作ろうかなあ、なんて考えていたりもするのだ。

 海に水族館、楽しみだな~、と浮かれながら隣室にやってきた午前10時。

 案の定、2人はまだ夢の中らしい。

 ベッドで眠る翔ちゃんと、その隣の床に布団を敷いて寝ている薫。

 ちょっとだけ、と思いながら2人の寝顔を見たり写メったりしたあと、布団を敷くために隅に避けられていたテーブルにふと目がいった。チューハイの空き缶が置かれていた。

 呑んだんだ、昨日。

 夜遅くまで話し込んでいたのかもしれない。起きないわけだ。

 薫が迷惑かけてないといいんだけど。

 空き缶と、隣にあった空のコップを片づけて、飽きもせず2人の寝顔を眺めた。

 うつ伏せ気味の翔ちゃんと、横を向いて寝る薫。ちなみにあたしは仰向けがすきだ。寝ているときのすきな体勢も、寝顔も、2人とも幼い頃から変わらない。

 なんだか感慨深い。思わず頬が緩んでしまう。眠っているいとこと弟を眺めながら笑っているだなんて、なかなか妙な話ではあるが。

 顔立ちこそ違えど、2人にはどこか似たものがある。例えば雰囲気、喋り方もそうだ。たぶん薫がかなり翔ちゃんに影響されているのだと思う。

 ちっちゃい頃はよく、翔ちゃんの真似してたもんなあ。

 幼き日の2人を思い出しながら、ひとりニヤニヤしていると、薫がもぞもぞと動き始めた。
< 57 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop