恋愛ターミナル
「梓―っ。お疲れっ」
「声大きいなぁ、凛々は」
「あ、ごめん。職業病かも」
賑やかな凛々は、一緒にいてほとんど凛々が喋るからラク。
本人は本気で悩んでいるのであろうことも、ネタにしか聞こえない不思議だ。
「きーてよっ。徹平のやつが! 私よりも友達を取ってね?!」
「でも、後半は『凛々も一緒に』って誘われたんでしょ?」
「私にランチを二回も取れっていうの? それにイタリアン食べてたのに、イタリアンのお店に行こうとしてたんだからっ」
「……そこ、重要?」
ま、なんだかんだ言って、高校から付き合い続けてる凛々と徹平だし、たぶん大丈夫でしょ。
そんな高をくくって、お酒を追加オーダーする。
つい今までうるさかった凛々が静かなのが変に思って、視線を戻すと、頬づえをついて真顔で聞いてきた。
「梓、彼とはどーなの?」
定期的に聞かれる質問。
ついさっき別れた男とは、なんだかんだ1年くらい一緒にいた。
その間も、その質問を何度かされては「なにも変わらないけど」と答えていたのだけど。
「別れたよ、今日」
「えっ!! なんで!」
「『なんで』って言われても……冷めたから?」
前のめりになって私の顔をみて聞き返す凛々を、驚きもせず私は冷静に返答する。
「私の話はいいよ。面白くもなんともないし」
自分の話はあまりしない。
秘密主義と言われれば、それにあてはまるのかもしれない。
だって、全然楽しくないんだもの。
不思議だけど、言い寄って来る男は大体彼女とか妻子持ちで。
好きになる男もそれと同じ。
兄弟姉妹はいなくて、一人っ子の私には話す相手といえば、目の前にいる凛々とか。
両親は――私が中学にあがったときにリコン。
それまでロクに会話してるとこも見なかったし、いっそ別れてくれた方がいい、と思ってたから苦しさはなかった。
――でも、だからだと思う。
自分の中で、『結婚』っていうものに憧れや羨ましさを感じないのは。