恋愛ターミナル


朝陽が差し込む部屋で、いつもと同じ時間に目を開けた。

昨日までとなにも変わらない。

ベッドから降りて、キッチンに向かって、コーヒーを淹れる。
テレビをつけて、今日の天気予報を見たら、流れてるニュースを耳で聞き流して支度をする。

着替えて化粧を終え、カップからまだ湯気が残るコーヒーを口に入れようとしたときだった。


「スバル! 今日おべんとーだってば!」
「なにっ!! 早く言え、早くっ!!」


わりと近くから聞こえた声に驚き、「あつっ」と思わず声が出てしまう。

――な、なに?

きょろきょろと部屋を見渡しても、当然誰かが居るわけじゃない。
近所から聞こえてきた声だ。

コーヒーをコトッとテーブルに戻すと、窓へと向かい、考えてみる。

私は一番端の部屋だから、隣は一軒。
隣は結構若い感じの女の人だったし、同じフロアは全部で4件だけど、子供なんて今まで見たことない。


「おれ、たまごやきあまいやつっ」
「時間ねぇのにわがままゆーな! ありがたくなんでも食え!」


また近くで聞こえてきた会話に、今度は自然と笑いが零れてしまった。

お父さん、頑張ってるなぁ。お母さんはいないのかな?
出社前にお弁当作るなんて、立派なお父さんね。


「ごはんはウルトラマンにしてー」
「ばかやろうっ。誰にもの言ってんだ!」
「スバルー」
「うるせっ。その呼び方やめろっ」


『スバル』って言われてる……。
でも最近珍しくないのかな? 夫婦間の呼び方を、そのまま子供も覚えちゃうっていう……。


「よし! ゆうと! 行くぞ!」


早っ。この短時間で出来るお弁当ってどんなの?
絶対、中身、ひどいことになってるでしょ……しかもたまごやき……きっと焼き立てをそのまま入れて蓋しちゃったんだな。


男の人が作るお弁当なんてこんな感じか、とぼんやり想像していると、テレビの時刻がいつも家を出る5分後を表示していた。


「やばっ。悠長に人のこと考えてる場合じゃなかったっ」


慌ててカバンを肩に掛け、いつもならゆっくりと飲み干すコーヒーも、今日は半分残して出社した。


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