恋愛ターミナル


誰にも誘われなかった今日は、冷蔵庫の中が空っぽだったし、買い物でもして帰宅する。

まだ明るい時間に帰宅出来るのは、ちょっと得した気分。
夕陽を背に受けて、近くの安売りスーパーに立ち寄る。

一人暮らしだから、たくさんは要らない。
すぐに傷んでしまうし、そんなに冷蔵庫自体も大きくはないし。

必要最低限のものだけを、ぽんぽん、とカゴに入れていく。
タマゴをカゴに入れ、通路に一歩踏み出したときに、足に衝撃を感じた。


「?!」
「わっ」


よろけながらも、尻もちをつくほどではない。

それより、声を上げた相手が大丈夫かを確認しなきゃ。


「だ、大丈夫?」
「……う、うん……」


向こうはまだ小さな子供。
きっとよそ見して歩いていたんだと思って私は注意する。


「あのね。ここはビンとかガラスとか、危ないものもたくさんあるから、よそ見して歩いちゃだめだよ」
「……はい……」


しゅんとなって、ちゃんと返事を返すその男の子。
こんな見知らぬ大人に注意されても、素直に謝ることのできる子は、きっとご両親の躾もなってるんだと思う。


「ケガはない?」
「うん。ごめんなさい」
「そう。良かった。こっちもタマゴは無事だし、気をつけようね」
「タマゴ? おねえさん、あまいたまごやきってできる?」
「え? 出来るけど……」


「あまいたまごやき」? ていうか、この子の声、どっかで――。



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