恋愛ターミナル
「うぉい!! ゆうとぉ! どーこ行ったん……」
ひょこっと現れた、髪がボサボサの作業服の男性。
見た目から察すると、年齢は、上?
ガタイのいいその人は、目を丸くして私に軽く会釈をして言う。
「あの……うちのが、なんかしちゃいました?」
おどおどとしながら、男の子の頭を大きな手で拘束し、私の顔を窺った。
私はこの子も、今目の前にいる男の人も、どこかで会った気がしてじっと見つめ返す。
「あの……?」と気まずそうな男の人の声で、思い出した。
あー! 今朝の父子だ!
顔は見てないけど絶対そう! 今朝のことだからまだ声もなんとなく覚えてて、同じだと思うし、なにより「ゆうと」ってそのとき呼ばれてた!
さらには「あまいたまごやき」。
間違いない。
心当たりがわかって、すっきりとした私と反面、向こうは首を捻るばかり。
私は慌ててその人に説明した。
「いえ、その……お子さんとぶつかってしまって」
「えっ! 大丈夫でしたか?!」
「え? ええ。私も、その子もケガしてないですよ」
「ゆーうーとーぉ」
私の話を聞いた男の人は、子供に合わせてしゃがんだ。
きっと、怒ろうとしてるんだ。
もうさっき私が注意したから、ほどほどでいいのに――。
そう思って、仲裁に入ろうかと思ったときに、男の子のぱぁっと明るい声が聞こえた。
「スバルっ。このおねーさん、あまいたまごやき、できるって!」
「はぁ? お前、なにどさくさに紛れてわけわかんないこと……」
「だって、スバルのきょうのおべんとう……」
「き、今日はおめーが朝突然に言うから! 俺だってやりゃ出来る!」
「ええぇー……」
父子のやりとりを、なんとなくそのまま眺めていると、男の子が私にすがりつくような目で見上げてくる。
そして言うことはこんなこと。
「だってね? きょうおべんとにスバルがつくったたまごやきはいってたんだけど、たまごやきじゃないんだよ?」