恋愛ターミナル

スーパーを出ても、近所のはずの父子は、当然私の前を歩いていた。

なんか、どんな距離を保てばいいかわかんない。
かと言って、家まで仲良く話をするほど親しいわけでもないし。

数十メートル離れた所から、夕日が照らす道路を二人で並んで歩いているのを眺める。

すると、不意にゆうとくんが、足を止めてくるっと私を見た。


「あっ! おねーさんっ」


指をさされた私はドキッとして、立ち止まった。


な、なんで気付かれちゃったんだろ……。


私の足に飛びついてくるゆうとくんを片手で触れる。


「おれのあしに、おねーさんのかげがきたっ」
「かげ……」


なるほど。影、ね。そっか。もうこんな時間の太陽だから、私の影が、ゆうとくんのとこまで伸びるのは当然よね。

そんな理由に納得をして、ゆうとくんを見てたら、小走りでお父さんが走って来る。


「だー! こら! 勝手に抱きつくなっ。ほんと、何度もすんません」


私の足に手を回していたゆうとくんを引きはがし、何度も何度も頭を下げる。


――なんか、この父子、憎めないな。

普段から子供とは率先して接することはない。
嫌いではなけど、好きってわけでもないから。

でも、こんなふうに、お父さんと子供のやりとりを見てるとなんだか勝手に笑顔になっちゃう。

いや、どの親子でもってわけじゃないのかな。
この、自由奔放そうな無邪気なゆうとくんと、家事とか出来なくてちょっと対等な扱いを受けてるお父さんだからいいのかも。



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