恋愛ターミナル

「いえ。子供のすることですから。気にしないでください」


私がそういうと、お父さんは最後に軽く頭を下げた。
いつの間にか、怒られていたゆうとくんは私の隣にいて、空いている手の指を掴んで言う。


「いっしょにかえろ」


顔をこれでもかと言うくらい上にして、無垢な笑顔で私を見る。
すると、やっぱりつられて微笑んでしまっている自分がいた。


「ゆうと! お前、普段そんなこと言わないくせに!」
「いいんです。私でよければ」
「わーい」


やっぱり、権力の弱そうなお父さんの言うことをものともせず、ゆうとくんは私の手を握った。


懐かれるのって、悪くないかも。
いや、このゆうとくんが、私の好きなタイプの子なのかな。


そこからの帰り道は、大人の足で大体10分かからないくらい。
でも、ゆうとくんの歩調に合わせたらそれ以上かかりそう。

道中は、いざとなったら私もなにを話していいのか全くわからなくて。


こんなとき、凛々だったらあっという間に仲良くなるんだろうな。


だけど、ゆうとくんはずっと笑顔で私の手を握って歩いていた。
途中、なにやらうたを歌いながら。


「……それ、幼稚園で歌ってるの?」
「そう! こんげつのおうただよ」
「へぇ。上手」


それからも私に褒められたからか、何曲かのうたを披露してくれていたら、家までついた。

私のアパートはここだけど……ゆうとくんのおうちはどれなんだろ。
裏のマンション? 隣の一軒家? まさか、同じアパートってことは……。



< 125 / 170 >

この作品をシェア

pagetop