恋愛ターミナル
「いえ。子供のすることですから。気にしないでください」
私がそういうと、お父さんは最後に軽く頭を下げた。
いつの間にか、怒られていたゆうとくんは私の隣にいて、空いている手の指を掴んで言う。
「いっしょにかえろ」
顔をこれでもかと言うくらい上にして、無垢な笑顔で私を見る。
すると、やっぱりつられて微笑んでしまっている自分がいた。
「ゆうと! お前、普段そんなこと言わないくせに!」
「いいんです。私でよければ」
「わーい」
やっぱり、権力の弱そうなお父さんの言うことをものともせず、ゆうとくんは私の手を握った。
懐かれるのって、悪くないかも。
いや、このゆうとくんが、私の好きなタイプの子なのかな。
そこからの帰り道は、大人の足で大体10分かからないくらい。
でも、ゆうとくんの歩調に合わせたらそれ以上かかりそう。
道中は、いざとなったら私もなにを話していいのか全くわからなくて。
こんなとき、凛々だったらあっという間に仲良くなるんだろうな。
だけど、ゆうとくんはずっと笑顔で私の手を握って歩いていた。
途中、なにやらうたを歌いながら。
「……それ、幼稚園で歌ってるの?」
「そう! こんげつのおうただよ」
「へぇ。上手」
それからも私に褒められたからか、何曲かのうたを披露してくれていたら、家までついた。
私のアパートはここだけど……ゆうとくんのおうちはどれなんだろ。
裏のマンション? 隣の一軒家? まさか、同じアパートってことは……。