恋愛ターミナル
「ほんと、付き合っていただいてすみません。俺んちここなんで」
「えっ!」
「はい?」
お父さんが指さした先を見て声を上げた。
その声に、目を丸くして、小首を傾げながら私を見る。
「や……その、うちも……ここ、なんで……」
「…………え?」
まさかとは思ってたけど。
朝、あまりに近く聞こえた声から、もしかして、ってことは想像していたけど。
だけど今まで同じアパート内に、子供のいる様子とか全く感じたことなかったから。
いつの間に、ゆうとくんが同じとこに住んでたんだろう。
「こ、ここ?」
そのあまりにも出来過ぎた偶然に驚きを隠せないゆうとくんのお父さんがもう一度アパートを指さして私に聞く。
それに対してこっくりと頷いて見せると、完全に動きが止まってしまった。
私たちの沈黙を破ったのはゆうとくん。
「え?! なに?! おねえさんも、ここなの?! やったぁ」
「ばか、ゆうと。別に遊べるわけじゃねーんだからな?」
「えぇー……」
ものすごく落ち込むゆうとくんが、なんだか可哀想な気持ちになってしまった私は、懸命にどう声を掛けようか悩んだ。
かと言って、『じゃあ遊ぼう』とは言えないし……。
「あ、あの……ゆうとくん。今日はその、遊んだりできないけど、また――――」
「『また』? またこんど?」
「えっ? いや、そういうまたっていうか……」
大人がよく使う、『また』。
社交辞令と言うか、なんというか。別れ際の定番の語句と言うか……。
だけど、そんなのは5歳の子供に通用するはずなんかないって、落ち着いて考えればわかることだったのに。
「じゃあさ、じゃあさ! あしたのあした! またおべんとのひなの! たまごやき、とどけてくれる?」
こんなキラキラと期待された瞳を向けられちゃ、いくら私でも無下には出来ない。
「……わかった」
「やったやったぁ! やくそくっ」
そうして小さな小さな小指を差し出される。