恋愛ターミナル
「ゆび、きーぃった!」
子供って単純。たったこれだけの約束事で、こんなに浮足立って喜ぶんだから。
でも、その太陽のような眩しいほどの笑顔。それ見ちゃうと、なんでもしてあげたくなっちゃうような気持ち、少しわかるかも……。
「わーい」とテンションが上がったままのゆうとくんに気付かれないように、おとうさんがボソリと私にひとこと言う。
「……合わせて貰っちゃってすんません。あとは俺からうまく言っとくんで」
――ああ。私が、この場しのぎで言ったと思って言ってるんだな。
まぁ、ある意味そんな感じではあったんだけど……子供の力ってすごいんだな。
「何号室ですか?」
「は……?」
「お届けにあがるくらいなら、出来ますから」
「えっ? いや! 申し訳ないですって!」
「あ」
なんか力いっぱい断られると、逆にしたくなるのは私の昔からの性格かもしれない。
逆境に強い――っていうのか、なんなのか。
だけど、そんな自分の性格押しとおしたら迷惑な理由がひとつ、思い出されて声を出してしまった。
その一声に、向こうも続きを待っているみたいだったから、仕方なく思ったことを口にする。
「……いえ。お母さんがいるなら、出しゃばった真似ですよね。気付かずすみません」
そうだよ。こんなさっき顔を合わせただけの、どこの馬の骨かもわからない女から、子供あてにたまごやき貰ったって気味悪いだけ。
普段から大体のことを冷静に考えて行動しているつもりの私としたことが。
「おかあさん、いないの!」
また、いつの間にか私の横にちょこんと立つゆうとくんが口を尖らせて言う。