恋愛ターミナル
「いない」って、一体どういうことなんだろう?
まさか、私の親と同じようなことなのか――。
だけど、そんな家庭の事情に口を挟んでいいのか、それはさすがに躊躇うな……。
私の顔色を察してか、ゆうとくんのお父さんが慌てて補足する。
「いや! いるんですっ。いるんだけど、あいつ、5日間も預けて旅行に行きやがって」
「ゆうと、おみやげたのんだぁ」
「女子会だかなんだか知らねぇけど、だったら実家に連れてけって話だ……俺だって仕事あんのによ……平日安いとかっつって」
ゆうとくんの言うことには構いもしないで、後半はどうやらぶつぶつと不満を口にしているみたい。
女子会で旅行。しかも5日間。加えて5歳の息子を夫に丸投げ……うーん、自由。
「まぁ、確かに。ご実家の方がよかったのかもしれませんね」
「それが、実家が市外で、幼稚園休ませたくないんだと」
子供がいるといろいろあるのね。
まぁ、確かにってちょっと長いとは思うけど、でも、お母さんだって息抜きしたいときってあるよね。
「まぁそういいながらも年一回くらいだし、結局5歳も下っつーからか可愛くて、甘い俺も悪いし。ゆうともたまには遊んでやりたいし」
うわ。まさかのラブラブ話。
ふーん。奥さん歳下なんだ。なんだかんだ、容認してるってわけね。なんだ、幸せな家庭じゃん。
「ね? だから、おべんとのひ。まってるからね! さっきやくそくしたもんね?」
「ぅおい! ゆうとっ。まだいう――」
「わかった」
「へ?」というお父さんの言葉を無視して、私はゆうとくんの高さに合わせて膝を折る。
初めは、じっと見つめる真剣な目から、私がにっこり笑って「約束」と言うと、笑顔の花が咲いた。
こんなに幸せ家族なら、一度くらい他人がたまごやきごちそうしたってなにも起きないでしょ。
それに、子供相手とはいえ、やっぱり『約束』は『約束』だから。