恋愛ターミナル

「いや、全然わかんねぇ」


……うそ。

どーしてわかんないのよ! なに? そんな純粋そうに見せかけといて、本当は2人を同時に愛せるとか? そんなふざけたタイプ?!


呆然と立ち尽くした私の手首を握り、ズイッとさらに顔を近づける。
そのままいくと、きっと、あの夜のように求め合ってしまう。
今度は、私にだって止められる自信なんかない。


目の前の欲望で自分を見失って、理性を無くしたの? 私なんかより、大事にしたいものがあるでしょう?!


「……ちょ、っと! ゆうとくん! ゆうとくんは?!」


私だって、その葛藤ってやつをしながら、どうにか平岡さんから顔を背けて声を絞り出す。

子供の名前を出されたら、誰だって罪悪感感じるよね。
ひどいやり方だけど、こうするのが一番てっとり早い。

すると、距離を取らないままで、平岡さんが平然と答える。


「ゆうと? 昨日出て行ったけど」
「……出、て?」


ウソでしょう? なんで……もしかして、私がいるから?


「なに悠長に、他の女に迫ってるのよ! なんで追いかけないのっ」


逸らした顔を戻し、正面からきつく言い放った。


ゆうとくんのこと、好きでしょう? あんなに仲良くしていたんだから、愛していたでしょ?
こんな一時の感情で、あの可愛い笑顔を奪わないであげて。

私が出来ることなら、なんでもするから。
ここを出て行くことだって、構わないから。


掴まれていた手を振り払って、今度は私が両手で胸を押しやる。

小さい私は非力で、がっしりとした平岡さんを一歩も動かすことが出来ない。
力じゃ敵わない私は、キッと見上げて睨んだ。

だけどその私の鋭い視線を受けてもなお、平岡さんは動こうとしない。
罪悪感で目を逸らすかとも思ったけど、それもしない。

むしろ、じっと穴があくほど私の瞳を見つめ返す。
その透き通るような瞳は、決してやましい心なんかない、って証明してるかのよう。

それから、二度瞬きをして彼が言った。


「なぁ、梓。なんか勘違いしてねぇ?」




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