恋愛ターミナル
「勘違い」? なにを? どんなふうに?
なにか考えながら、ヒゲが伸びてる顎をボリボリ掻いて宙を見る。
そんな彼を私は目を丸くしながら見てると、その考え事は短時間で終わって、すぐに私に向き直った。
「梓。俺の名前は?」
「え……? ひ、平岡、昴……さん」
「正解。じゃ、ゆうとの名前は?」
「ゆうとくん??」
ゆうとくんのフルネーム……。直接耳にしたことはなかったはず。
前に幼稚園の制服姿を何回かみたけど、そのときの名札までちゃんと見てない。
なに? 名前がなんだっていう話?
「知らねぇなら、やっぱり勘違いだな」
「はー」とがっくり項垂れて溜め息をつかれる。
顔を上げて私と目が合った平岡さんは、ふてくされながら言った。
「あいつは、原田ゆうと、っつーんだ。俺、そんなにオヤジっぽい?」
――――え。
私はきっと、人生で初めて目を点にした。
だって、こんなに呆気に取られるようなことってない。
それはそれは、間抜けな顔を晒してるんだと思いながら、その表情を変えるまで脳が働かない。
「……じゃあ、なに? 平岡さんとゆうとくんて――」
「甥だ、甥!」
「結婚も離婚もして……」
「ねぇっつーの!!」
平岡さんはウソをつかない人。
第一、この期に及んで、まさかそんなウソなんてつく人もいないだろうけど。
だけど、あまりに今まで勘違いさせられるキーワードが多すぎたから……。
「ゆうとくんのお母さんのことを『可愛い』って言ったり、会社の上司に『誤解される』とか言ったり……ていうか、あの上司も『子持ち』って言ってた!」
「そら、“梓に誤解される”っつーことだろ。どう考えても! 課長は悪ノリだ、悪ノリ!! 可愛いっつーのは歳離れた妹だから……」
「えぇ?!」
だって! ゆうとくんが何よりの証拠だと思ってたから! 私悪くないよね?!
唖然として、開いた口が塞がらないってまさにこういうことなんだ、なんて頭の片隅で考えていたら、目の前に平岡さんの顔が来た。