恋愛ターミナル
とにかく走って、走って……。徹平から遠くに離れたくて。
……なにやってんの、私。
自分だって他の男といたんだから同罪のクセに。
相手ばっかり心の中で責めて、逃げて、落ち込んで。それでも許せない感情がまだ渦巻いてる。
ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んで、「はーっ」と大きく吐いた。
「待って!」
結構走ったつもりなんだけどな。
呼び止められた声に少し驚きつつも、その声が悲しくて失笑しながら振り向いた。
「ごめん、俺があの店に……」
「杉中さんのせいじゃないですよ」
眉尻を下げて申し訳なさそうに謝る杉中さんに私は言った。
追い掛けて来てくれたのは杉中さんで、徹平じゃない。
その事実が、泣くよりも私に笑いをもたらす。
「もう、なんかどーでもいいです。ちょっと頭冷やして帰りますんで。杉中さん、今日は――」
「笑うなよ」
やたらと饒舌に喋る私を遮るように、杉中さんに抱きとめられる。
大きな体に包まれて、体はあったかいはずなのに、やっぱり心は冷えたまま。
だからか、やけに頭の方は冷静で。いつもの私ならパニくる状況だけど、動揺することもなく、ただ杉中さんの腕の中にいた。
「俺はいつも笑ってる凛々センセ見てるからさ。今の笑顔って、いつもと違うってすぐわかるよ」
「あ、はは……イイ女には程遠いですね、私」
「可愛いよ。かっさらいたいくらい」
言われ慣れない甘いセリフに、胸の中で顔を上げる。
私を見下ろすメガネの奥の双眼が、真剣なのが伝わって来て、冗談で返すことも出来ない。
それでも、この抱きしめられてる状況はマズイ。
やっと目を逸らして、胸に手を置き、距離を取ろうとした。
「はは……す、杉中さん。慰めてくれちゃって……」
「このまま慰め続けても、俺は全然構わないけど」