飛ばない蝶は、花束の中に
「…雅」
私は、初めて“雅”の名を呼んだ。
リビングの真ん中で、壊れた鉢からこぼれた土を、素手でかき集めていた雅が、振り返る。
“タカノ”は鉢を拾い集め、お兄ちゃんは紙袋を広げて、その欠片を、受けていた。
「どうした深雪、眠れないのか?」
「うん、ちょっと」
雅に用があるような視線を向ければ、かすかに眉を寄せたお兄ちゃんは、ちょっと待て、と。
紙袋を床に置いて、土に触れた。
「あ、凱司さん、手ぇ汚れるから…」
雅よりも遥かに長い指で、欠片ごとかき集めたお兄ちゃんの手を押さえ、あたしがやりますから、と慌てる雅が腹立たしい。
私は、仲の良さそうな3人の様子を苦々しく思いながら、黙って、待っていた。
ちらりと、“タカノ”の目が牽制するように剣呑に光ったけれど。
あてがわれた女の子を黙って受け取るような男に、なにも牽制される覚えは、ない。