飛ばない蝶は、花束の中に
「おや、須藤さん」
白の混じった口髭の、ゆったりとした雰囲気のマスターは、意外そうに雅と私を見やると、眉をひそめた。
「暑さにやられましたか?」
マスターは雅の顔を覗き込み、奥の席へと誘導した。
大丈夫です、と、すみません、と、ごめんなさい、と。
ありがとうございます。
雅はこの4つを上手く使うけれど、ここ数日で、ちょっと聞き飽きた気もする。
「ひとまずはアイスティをお持ちしましょうね」
ひんやりと、冷たい空気が溜まっているような席に座らされ、私は、ほっとしたように雅がため息をついたのを、聞き逃さなかった。
「……どうしたって言うのよ」
「ごめんなさい、も、大丈夫。ちょっと暑くて」
…………また、言わない。
暑かったと言う割には、顔色は白い。
上がった息を整える為か、雅は三度、深呼吸をしてから、にこりと微笑み、顔をあげた。