飛ばない蝶は、花束の中に
「そうだ、深雪」
お兄ちゃんは、煙草を咥えたまま立ち上がった。
自室に戻るのか、一旦は出した携帯を再びポケットに入れると、雅の入れたであろう、薄緑色の冷たいお茶を飲み干す。
「ちょっと来い」
私は、やっぱり怒られるのかも知れない、と。
背の高いお兄ちゃんを、見上げた。
通り抜け様に、ひょい、と。
「……はぅ…っ」
髭の彼が困り切った顔をしているのに、まるでお構い無しにそのスーツをはたいている雅の体をお腹から掬い上げて。
そばに割れていた白い陶器の、小さな灰皿を拾っていた“タカノ”の膝にまで、床を滑らせた。
灰皿は、きっとお兄ちゃんが、髭の彼に投げつけたんだと思う。
吸い殻は無かったみたいだけど、きっと灰がスーツにかかったのだろう。
雅のはたいた部分は僅かに白く、汚れていた。