飛ばない蝶は、花束の中に
お兄ちゃんの、薄墨色の蛇が、雅に伸びた。
絡め取るように引き寄せた体を、“タカノ”に押し付ける。
「首輪でも付けとけ」
「鎖の付いた赤いのがいいな」
「……ちゃんと掴まえとけ、って意味だ」
「わかってるよ」
嫌そうに“タカノ”を一瞥したお兄ちゃんは、“むっつりえっち”な髭の彼を助け起こしてから、思い出したように笑いをこらえ、目を逸らした。
「………相変わらず破壊力あるな、雅は」
くくっ、と堪えきれずに漏れた、お兄ちゃんの苦笑する顔。
「深雪ちゃん、髪、やってあげるから」
満足げに、押し付けられた雅を腕に閉じ込めたまま私に言う、“タカノ”の苦笑。
未だ頬を膨らませた雅の、その腕を抜け出そうとしない、子供じみた表情。
くるくると見渡した私は、どうしてか。
“タカノ”も、髭の彼も。
お兄ちゃんですら。
全て、雅の手の中にある、と。
焦りのような苛立ちを。
感じた。