飛ばない蝶は、花束の中に
僅かな緊張はあったけれど。
彫刻の綺麗な金属のドアを、開けた。
「…いらっしゃいませ」
控え目に、囁くように私に声をかけた男は、多分、今しがた見た男だ。
すらりと長身で。
背筋が伸びていて。
気持ちが悪いほどに、なめらかな笑顔を、浮かべているけれど。
多分、完全予約制なのかもしれない。
急に入ってきた私を、僅かに訝しげに、観察していた。
「…“タカノ”、さん、は居ますか」
一応、丁寧に訊いた。
私だって、何も暴れる気で来た訳じゃない。
「鷹野ですか?」
失礼ですが、お約束がおありですか?と。
慇懃無礼って、これか、と思うような態度に、実はちょっと怯んだのだけれど。
個室、とまでは行かないまでも、しっかりと区切られた、黒と銀の空間のどこかに“タカノ”は居るんだ、と。
何故だか湧いた、ちくりとした不快な痛みが、私の怒りを煽り立てた。