飛ばない蝶は、花束の中に



どのくらい待たされるんだろう。

匂いは確実に“美容室”であり、マニキュアの匂いの混じる空気の流れを、わずかに感じた。


何を話しているのかまでは解らないけれど、時折聞こえる含み笑いは、女の声然り、男の声然り。


ひどく淫靡に聞こえて。

鳥肌が立つような気持ちの悪さと、“タカノ”もここに居る、という事実が、私に唇を噛ませた。





「あと8分待ってて」


不意に後ろから、小さく声を掛けられて、びくりと振り返っても、声の主はすでに立ち去った後。

誰ということもない、“タカノ”の声だ。


入れ替わるように、さっきの男が、綺麗な陶磁器のティーカップをトレイに乗せて、滑り込んできた。




「先ほどは失礼いたしました。笠島さんの血縁の方でしたか」



やっぱり囁くような声だけれども、明らかに向ける笑顔が変わった男に。

なんだ、お兄ちゃんが“タカノ”にこんな仕事をさせて。


雅は、だから。

受け入れてるのか、と。



ちくり、ちくりと。
心が痛む。



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