飛ばない蝶は、花束の中に


「さて、深雪。おまえの番だ」


私は、助手席に移動していたから、お兄ちゃんの横顔を、怖々と見やった。



「深雪?」

「…はぃ」


怒られる、よね…?




「雅を、馬鹿だと思うか?」


自分の男が、あんな仕事してることに文句も言わない事や。

お前に、冗談でもちょっかい出すのを怒れない事、とか。

挙げ句の果てに、自分の意志すらはっきりしない所、とか。





「…………雅は…ちゃんと言ったわ。嫌だけど嫌、って」


お兄ちゃんの言う意味は、わかる。

はっきりと、誰にでも解るような言い方は、していないのは確かだけど。

でも、あれは。


“タカノ”と離れるのはイヤだけど、私にキスをしたこともイヤって事。




「でも、馬鹿だと思うわ」



“タカノ”が他を向く事を、嫌だと感じた自分に、あんなに戸惑うなんて。


好きならば。
当たり前の事なのに。




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