飛ばない蝶は、花束の中に
「なに朝から不機嫌そうな顔してんだ」
お兄ちゃんは裸のまま、私の頭を撫でる。
そういえば私、お兄ちゃんの裸なんか、見たこと…ナイ。
あ、一度…海に連れて行ってもらった時に、見たかも知れないけど…こんなにタトゥーが入っていた…かな…。
お兄ちゃんの左腕の蛇が、筋肉に沿って、まるで生きているように、動く。
「深雪、どこか出掛けるか?」
そんな事を言うお兄ちゃんは、昨日の、美術館に行きたいと言った“雅”の事など、まるで忘れているようで。
ちらりと盗み見た“雅”も、そんな事は聞こえていないとばかりに、コリコリとコーヒー豆を挽いていた。
「……海」
「海?…海なんかお前、自分ちのすぐ傍じゃなかったか?」
そう。
私の住んでいる土地は、ここよりも南にある、海辺。
お兄ちゃんは来たことは無いはずだけど。