飛ばない蝶は、花束の中に
「……あぁ?」
ふと“雅”の方を振り返ったお兄ちゃんが。
ややびっくりしたような声を上げ、挽き終えたコーヒー豆をフィルター紙にあけていた“雅”のすぐそばに、ゆっくり近付いた。
「…おはようございます」
「………あぁ…」
私にしたのと同じように、にこりと首を傾げた“雅”の、顎に。
いきなり指をかけて上向かせたお兄ちゃんは、不自然なほどに“雅”の顔を、眺めた。
「…………鷹野は」
「もう、来ると思います」
アラームセット、してたし、と、おとなしく上を向かされたまま笑む“雅”は。
顔を赤らめることも、背けることもなく、なすがまま。
「…………お兄ちゃん!」
その距離に動揺したのは、私。
決してそうではないんだろうとは、思う。
思うけど。
キスを、しちゃうんじゃないかと。
急に叫ぶように呼んだ私に、“雅”のびっくりしたような視線が、痛かった。