暗黒の頂の向こうへ
第二章 時空警察
西暦2085年地下都市テラ、時空警察本部。
早朝の静けさの中、けたたましく緊急警報が鳴り響き、時空警察管制官の緊急入電が流れる。
「こちら管制塔、西暦2017年5月18日のメキシコ・バハ・カリフォルニア・スル州・ラパス付近、緯度24度04分、軽度110度22分地点に、複数のダイブアウトによる磁気反応を確認。
ドームゲート、オープン、発射カタパルト準備OK。 第四チーム緊急出動。 調査、追跡せよ」

西暦2080年、科学者ロイ・ミラーによりタイムトラベル装置、
タイムマシーンが発明された。 以後、タイムトラベルによる歴史の書き替えを企む犯罪が横行し、テラ政府は緊急に、タイムトラベルによる、時空不法侵入の禁止条例を制定した。 そして取締機関を構築し、様々な時代を監視。 歴史変更を企てるテロ組織を追跡し、検挙していた。 その名は、時空警察blitz《ブリッツ》である。 

 「了解。 こちら第四チーム。 時空移動船ノア、出動します」
耳をつんざくような轟音が響き、半重力エンジンがうなりをあげる。
時空移動船は、時速50万㎞の超高速で、成層圏を移動する。
物体は超高速で移動すると、経過時間が短縮される。
 時間と距離とのタイムラグで生じる時空の入り口をタイムゲートと呼び、時空移動船のような大型の物体がタイムトラベルするには、巨大なパワーと、超高速の速度が必要とされていた。

「こちら時空移動船ノア、パイロット、マリア・ヘンデル中尉、
只今西暦、2017年5月18日にダイブアウト。
大西洋上空を飛行中。 時空レーダーに、複数のダイブアウトポイントを確認。 時空に再突入します……」
時空移動船は、パイロット1名、時空ダイバー2人で、構成されている。 本来タイムゲートはミクロの世界であり、とてつもなく小さい。 その小さい入口をタイムスリップ装置で広げ、時空の世界へと進入する。 その入口は短時間で閉じてしまい、再び同じ時代で開くことはない。 タイムホールと言われる時空内の幅は、約80メートルあり、複雑に蛇行していた。 過去と未来の双方向の時空の流れが存在し、激しい渦を巻いている。 時空移動船は、その大きさゆえホール内で無理に速度を上げる事ができない。 そのため生身の人間がタイムトラベル装置、ダイブスーツに身を包み船外にダイブする。 そしてタイムホール内を高速移動し、様々な時代に不法侵入する犯罪者を追跡し、検挙していた。

「現在、飛行速度20万㎞。 守、隆一、15秒後に時空に侵入する。 ダイブ準備」
「了解、準備完了。 侵入者のダイブポイントを、確認次第ダイブする」
 神村守と古代隆一が、いつものようにアイコンタクトし、ダイブポイントを逃さぬよう、ゴーグル内に写し出される進入ポイントを確認する。 
 マリアの声が大きく船内に響く。 
「ノア、時空に侵入します」 
 時空移動船は、時速50万㎞まで速度をあげ、時空の歪みえと消えていった。
「こちら守、ダイブポイントを確認、追跡ダイブする。 侵入角度50、ダイブ」
二人は黒々とした時空の闇、激しい渦の中へとダイブして行った。

時空ダイバーは、研ぎ澄まされた集中力と、テクニックが要求される。 時空嵐により空間が不安定なため、一度侵入角度を間違えると、時代検索の出来ない時代に落ち、元に戻れなくなるか、時空ブラックホールに吸い込まれ、脱出不可能になる。
隆一は、毎回生死に関わるスリリングなダイブの瞬間を、楽しんでいた。 「ヒャッホー……。 毎回ダイブの瞬間は最高だなー。
まるで、奈落の底に落ちて行くようだ。 ぞくぞくするよ……」
 「隆一、お前はいつも変わらないな、侵入角度を間違えると、
どの時代に行くか分からないぞ。 ブラックホールにはまっても、
俺は知らないからな……」
 「大丈夫だ、俺はお前よりダイブはうまい。 へマはしない」
守と隆一は、凄腕の時空ダイバーである。 少年時代、そして時空警察学校から切磋琢磨するライバルであり、親友であった。
「俺は時空レーダーを、注意深く確認しながら追いかける。 隆一は、このまま追跡を頼む。 ダイブアウト地点で、落ち合おう」
「了解、いつものように早めに片付けよう」
二人の連携はいつも絶妙であり、アイコンタクトで通じ合っていた。
「こちら隆一。 ターゲット補足。 磁気反応確認。 西暦2020年12月24日のメキシコ・チワワ州フアレス郊外にダイブアウト……」
 「何……。 メキシコ・フアレス! 前に、麻薬捜査で聞いた事がある。 核戦争前の世界で一番危険な街だと! 隆一、ダイブコンピューターで検索してみろ」
隆一は言われるまま、ダイブアウト地点の情報を検索した。
 するとその街は、麻薬、拉致、レイプ、人身売買、臓器売買、殺し、何でもありの犯罪地帯! 犯罪組織は麻薬をアメリカで売り、武器を輸入して軍隊並みに武装している。 組織員は元軍の特殊部隊出身者が多く、強力な戦力を保持している! そして年間千人もの女性を拉致監禁し、レイプした後、臓器売買で麻薬と同じくアメリカで売りさばかれる。
ジャーナリストが麻薬撲滅を訴えると、数日後には見せしめの為に、路上にバラバラ死体となって、ぼろ雑巾のように捨てられる。 メキシコからアメリカに通じる麻薬トンネルには、20トンものコカインやマリファナがあると言われている。 フアレスは無法地帯、無政府状態だと。
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