カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
そんなことを思いながら、今度は下りる階を間違えないように、上を見上げたまま口を開いた。
「ちょっと、本調子じゃないみたいなので」
「具合悪いの?」
「いえ。そういうのではなくて」
右から左へ移動する電球色を目で追っていると、さっきの匂いがふわりとまた私の鼻腔をくすぐった。
「じゃ、俺のこの前のやつが関係してる?」
私の視界を遮るように神宮司さんは目の前に立ち、片手を顔の横で壁につける。
ちょうど階数を見るために見上げていた顔が、彼との距離をより近くさせてしまった。
いつもは気さくで軽い雰囲気の神宮司さん。でも、今間近にいる人はちょっとだけ違う。
――きっと、オフのときの顔。
私はただ、神宮司さんの手に阻まれたまま、彼のその顔を見つめてた。
「少し、待てる?」
「……え?」
「阿部が帰るころに誘いに行こうと思ってたんだ。付き合えよ」
再び、『ポン』という音が私たちの間に響いた。
「ふ」と笑って神宮司さんは手を離し、エレベーターを降りてから振り返る。
「30分。そしたら電話する」
ウィーンと扉が左右から閉まって行く。神宮司さんはその最後までそこに立ったままだった。
未だに瞬きするのも忘れていたら、今度は本当に1階に着く。
ああ、私また肩に力入ってる。
エントランスの中央部で両足を揃えると、胸にある社員証の紐をぎゅ、っと握った。