カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
メールの受信ボックスに表示されたものを見て思考が止まる。
登録のしてないアドレス――だけど、ひとめで宛先人がわかる。
【k.h】というイニシャルを、その中に見つけたから。
何度もそのアドレスを見たあと、そっと指を触れる。
なに? 電話の次はメール? 会社用のパソコンへのメールが転送されるようになってることを読んでのことね。
全く、歳下のくせにぬかりないんだか――……。
内心心臓がバクバクと跳ね上がっているところを、平静を保つために冷静に分析する。
でも、メールを開いてしまったら平静も冷静もなくなった。
【明日の20時、空けといて】
真っ白な画面に、一行にも満たないような文。
メールなんだから、もっと中身に推敲を重ねられたでしょ。
待ち合わせ場所とか、私を呼び出す理由とか。
なんで決定事項のように言うわけ? 私が都合つかなかったらどうするのよ。それとも、私があんたに合わせるって自信でもあるわけ?
ディスプレイに心の中で悪態をつきつつ、どう返事をしようか戸惑う。
私を必要としてくれているのなら、正直いやな思いはしない。
だって今、私は誰かに必要とされることに飢えているから――。
携帯の画面が暗くなりかけたときに、今度は着信音とバイブレーションが同時に作動した。
焦点をもう一度合わせて画面を見ると、【神宮司匠】。
結局心を落ち着けるどころか、要のメールのおかげで余計に掻き乱されたまま、私は電話に出た。
「……はい。阿部です」
『おい。仕事じゃねーんだから、そういう電話の出方するなよな』
耳元から聞こえてきた声は、いつもの神宮司さんで少しほっとする。
この間(かん)、あっという間にビルの間に落ちてしまった夕陽を探すように顔を上げる。
「……つい」
『ま、阿部らしくていいけど。今どこ……』
携帯から聞こえた声と、左側から同じ声が重なって聞こえた。
振り向くと、向こうも私の視線に気づいてすぐに目が合う。それから通話状態のまま、神宮司さんが笑ってひとこと言う。
『30分もそこで待ってたのか?』
急いで切り上げてきたんだろう。
上着の袖を通しながら外に出てきた彼を見てそう思った。
「……いえ。トパーズの空を眺めてたんです」