絶滅危惧種『ヒト』
「十年くらい前にさぁ」


喋りかけて孝明は言葉を止めた。


全員が食い入るように自分を見つめているのに気がついたのだ。


その状況が、つい可笑しくて一瞬吹き出しそうになるのを堪えた。



「アフリカで爆発的な感染力の、伝染病が蔓延しただろ?」



「十年前……。そういえばそんなのあったな」


「鳥インフルエンザ?」


栞がクイズ番組の解答者のように目を輝かせて答える。



「アホか! そんなんじゃないわ」


「で? それが何?」



「ああ……その伝染病が世界中に広まるのを直前で食い止めた医者がいる」



「もしかしてそれが?」



「そうだよ。自分も感染しながら、命と引き替えに世界を救ったのが桜小路昇っていう医者だ。

現代の野口英世って大々的に取り上げられただろ?」



「知らないよ。十年前なんて言ったら、小学校の低学年だもん」


栞が口を尖らせるのに合わせて、梓も頷いた。



「ああ、私は覚えてるわ。そんな立派な方がお父さんなのね」


母に嬉しそうに言われて、何だか梓は自分のことを褒められたみたいに嬉しくなった。

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