絶滅危惧種『ヒト』
「おう直樹」


井上は感染症学科にやってくると、直樹に向かって声をかけた。


「おお、達弘。オマエが来たのか」


直樹が微笑む。


「それでどういう状況なんだ?」


井上は手帳を取り出しながら質問をした。


「現時点で分かってることは、患者は小林孝明っていう38歳の男性で、南極観測隊員だったんだが、昨日日本に帰ってきてる」


井上は南極観測隊員という言葉で、さっきの聖人との話しを思い出した。


「ああそう言えば……さっき下で聖人に会ったぞ」


「えっ、何で聖人が?」


「ほら、例の氷の」


「あっ、じゃあヤッパリ聖人の彼女の叔父さんだったのか!」


「ああ、そうみたいだな」


達弘は頷いた。


「そうか……で、続きなんだが」


「ああ」


「今日の午後五時半頃、内科の外来を受診。その際に問診表を書いている。これがそのコピーだ」


聖人は先ほど内科の外来に行き、状況を確認していたのだ。


「しかし……内臓がドロドロに溶けてるんだろ?」


「ああ、俺は見てないけど、そうらしい」


「なのに病院まで来て、倒れる直前まで普通に問診表を書いてたなんて、痛みとかないのかな? それとも一瞬で内臓が溶けるのか……」


「それは……」


「もしくは、ウイルスが痛覚神経を麻痺させるとか、あるいはエンドルフィンを大量に発生させるとか……」


井上が腕組みをした。


「とりあえず緊急のカンファレンスがありますので、お願いします」


そこで竹井が口を挟んできた。


「分かりました」


それに対して、井上と一緒に来ていた林が返事をした。

< 80 / 223 >

この作品をシェア

pagetop