絶滅危惧種『ヒト』
そうだ。まだ聖人が外来にいるかもしれない。


直樹は一階の外来に行ってみることにした。


もしも新種の伝染病なら、一刻も早くワクチンを開発しなければならないのだが、

実は、すでにキャリア(保菌者)の遺体は、国立感染症研究所に送られていて、あっちがメインになるのだ。


もちろんだからといって、直樹も一研究者として、自身も検査を続けるつもりである。


こういう言い方は不謹慎極まりないのだが、新種のウイルスを誰よりも早く検査出来ることなんて、そうそうないうえに、

メインは国立感染症研究所のほうになるから、自分には早急にワクチンを完成させなければならないという責任もないのだ。


まだいるかなぁと思いながら一階に下りると、聖人はまだいた。


「おい聖人」


声をかけると、聖人は振り向いて驚いた顔をした。


「兄ちゃん」


聖人の隣で泣いている二人の女の子も、直樹のほうを見る。


「おい聖人」


「ん?」


「オマエの彼女って、どっちの子?」


「ちょ、何言ってんだよ。こんなときに」


聖人が焦って文句を言う。すぐ後ろの席には、梓の両親もいるのだ。


「ぁ、初めまして、岩崎梓です。よろしくお願いします」


梓は涙を拭いながら、立ち上がって挨拶をした。


「昨日ねぇ、家に帰ったら、うちの母親がもの凄く嬉しそうに君のことを話すんだよね」


「えっ、そうなんですか?」


「わざわざ買い物に付き合ってくれるみたいで……。有り難うね」


「えっ、そんな……でも」


「ん?」


「明後日の約束……行けなくなっちゃいました」


「あっ、ああ、そうか。叔父さんのお葬式か……」



「ごめんなさい」


「いやいや、謝らないで。母にはちゃんと言っておくから」


直樹は弟の彼女に対して、好印象を持った。

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