伯爵令嬢は公爵様と恋をする
Vol.21 (ディー視点)
酒場とは非常に便利な場所だ、と改めて思う。
ほんの少し目立つだけで、ものの数分で噂が広がり好奇心でいっぱいの視線が私たちを取り囲んだ。
明らかに「その世界」の住人達はもちろん殺気のこもった視線を向けてくる。
しかし表だって仕掛けるのは未だ早計とばかりにこちらの様子を伺うだけだ。
どんなに装っても自分たちの変装が、辺りの雰囲気になじむには普段の格好より「幾分マシ」という程度だと知ったのは、あまりにも毛色の違う町行く人々が
「どこのご子息か」
と囁いていたからだ。
これには参った。
一応「流れの賭博師」という設定ではあるが、所詮「どこかの没落貴族の放蕩息子」と言ったところか。
となれば逆転の発想だ。
時として世間知らずの彼らはならず者たちにとって格好の「カモ」だ。
必ず私たちに狙いを定めた輩が近寄ってくるはず。
そして彼らとやりあっている間に「本業者」だけが持つ、本物の殺気を探るのが目的だ。
囮として私たちに自ら近付いて来た者たちから情報を引き出すふりをして、バルツァー侯爵とアウラー男爵の事件について調べていることを周囲に漏らすのだ。
恐らく彼らと繋がりのあった人物はこちらに鋭い殺気を向けるだろう。
私とアルが二人きりになる時を狙って、仕掛けてくるに違いない。
そこを一網打尽にしようというのが今回の大雑把な策だった。
だからこそ辺りでも一番危険だと言われる酒場を選んだ。
口で言うほど簡単な策ではないが、何人いるか分からない敵を炙り出すには最良だろう。
「この辺りじゃ見かけねぇ顔だなあ。いっちょ前にバクチ打とうなんざ100年早ぇぜ?」
「ボウヤはお家に帰ってミルクでも飲んだらどうだ?」
一歩酒場に入れば案の定、強い酒で顔を真っ赤に染めた、がっしりした体躯のたかり屋たちが群がってくる。
酒の飲み方を知らないからそんな風に悪酔いするんだ。
一言返してやりたくなるが、今はそんな場合ではない。
うまい事引っかかってくれたと感謝しながら、ちょっとした意趣返しの意味も込めて満面の笑みを浮かべてやる。
「若造だと思って甘く見ない方がいい。痛い目を見るぞ」
「何だって?はん、お前らにくれてやるような金はねぇよ!やれるもんならやって見せろ」
「いいんだな?店主、悪いが奥の席を借りるぞ。ここは警察が巡回しにくるような無粋な店じゃないだろう?」
「ああ、安心しな。くれぐれも泣きづらかかねぇように気ぃ付けな」
「ご親切にどうも。なんなら祝い酒を用意しておいてもらってもいいんだぞ」
「そういう事は勝ってから言いな」
店主は煩わしそうに片手で私たちを追い払うように、奥の席に促した。
可哀相に何も知らない馬鹿な輩たちは周囲にいた客まで巻き込んで、わざわざ私たちの得意なカードを用意してくれる。
いかにも古びて薄汚れているが、これを使っている理由は一つだ。
手に馴染んでいるからこそ、やりやすいのだ。
イカサマを。
「そっちのボウズはどうすんだ!高みの見物か?」
奴らの一人がアルを挑発する。
ああ、本当に、無知とは愚かだ。
「心配しなくてもディーは負けないよ。ただし、イカサマされたら困るからね。僕がディーラーをしようか」
「「!?」」
「おや、もしかして図星だった?イカサマしなきゃ勝てないなんて、臆病者の負け犬じゃないか」
「何だと!?」
「騙してなんぼの勝負しかしてなかったわけ?だらしないなぁ」
「っこの、クソガキがぁっ!!」
明らかに挑発だと分かるアルの言葉に、数人が殴りかかる。
しかしどれも一本調子の攻撃で、大したスピードもない。
アルと二人でパシッと小気味よい音を立てて全てを掌で受け止めとめると、瞬時にその勢いのまま相手の方へ押し返してやった。
「「なっ!?」」
見事彼らは椅子に尻餅だ。
瞬時辺りは水を打ったかのように静まり返った。
「だから言っただろう?痛い目を見ると」
「相手を見た目で判断するからそういう事になるんだよ。どうするの?僕らとやる?それともこのまましっぽ巻いて逃げる?」
「いい加減にしやがれっ!!そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!!」
「じゃあ選んでよ。ブラックジャック?それともポーカー?」
完全に悪魔の微笑みを浮かべたアルは冷たい視線を彼らに向けた。
おかげで彼らの敵対心と怒りは頂点に達し、一層こちらに有利な状況が出来上がる。
頭に血の上った人間ほど潰しやすいものはない。
ただ本来の目的は彼らを完膚なきまでにのめすことではないのだが…どうやらアルは「ボウズ」と言われたことに心底腹を立てたようだ。
きれいな笑みを浮かべているが、瞳に怒りがめらめらと燃えている。
本気になったアルのおかげで十数分後、彼らの財布はすっからかんになる。
悔し紛れに散々他人から巻き上げた金貨まで賭けたものだから、数回の勝負で彼らの生活は明日をも知れぬものとなったわけだ。
全身から血の気の引いた彼らに対し、完全に主導権を握ったアルは絶対零度の視線で彼らを見据える。
蛇に睨まれたカエル状態の彼らは怯えたように私たちの様子を窺っていた。
酒場とは非常に便利な場所だ、と改めて思う。
ほんの少し目立つだけで、ものの数分で噂が広がり好奇心でいっぱいの視線が私たちを取り囲んだ。
明らかに「その世界」の住人達はもちろん殺気のこもった視線を向けてくる。
しかし表だって仕掛けるのは未だ早計とばかりにこちらの様子を伺うだけだ。
どんなに装っても自分たちの変装が、辺りの雰囲気になじむには普段の格好より「幾分マシ」という程度だと知ったのは、あまりにも毛色の違う町行く人々が
「どこのご子息か」
と囁いていたからだ。
これには参った。
一応「流れの賭博師」という設定ではあるが、所詮「どこかの没落貴族の放蕩息子」と言ったところか。
となれば逆転の発想だ。
時として世間知らずの彼らはならず者たちにとって格好の「カモ」だ。
必ず私たちに狙いを定めた輩が近寄ってくるはず。
そして彼らとやりあっている間に「本業者」だけが持つ、本物の殺気を探るのが目的だ。
囮として私たちに自ら近付いて来た者たちから情報を引き出すふりをして、バルツァー侯爵とアウラー男爵の事件について調べていることを周囲に漏らすのだ。
恐らく彼らと繋がりのあった人物はこちらに鋭い殺気を向けるだろう。
私とアルが二人きりになる時を狙って、仕掛けてくるに違いない。
そこを一網打尽にしようというのが今回の大雑把な策だった。
だからこそ辺りでも一番危険だと言われる酒場を選んだ。
口で言うほど簡単な策ではないが、何人いるか分からない敵を炙り出すには最良だろう。
「この辺りじゃ見かけねぇ顔だなあ。いっちょ前にバクチ打とうなんざ100年早ぇぜ?」
「ボウヤはお家に帰ってミルクでも飲んだらどうだ?」
一歩酒場に入れば案の定、強い酒で顔を真っ赤に染めた、がっしりした体躯のたかり屋たちが群がってくる。
酒の飲み方を知らないからそんな風に悪酔いするんだ。
一言返してやりたくなるが、今はそんな場合ではない。
うまい事引っかかってくれたと感謝しながら、ちょっとした意趣返しの意味も込めて満面の笑みを浮かべてやる。
「若造だと思って甘く見ない方がいい。痛い目を見るぞ」
「何だって?はん、お前らにくれてやるような金はねぇよ!やれるもんならやって見せろ」
「いいんだな?店主、悪いが奥の席を借りるぞ。ここは警察が巡回しにくるような無粋な店じゃないだろう?」
「ああ、安心しな。くれぐれも泣きづらかかねぇように気ぃ付けな」
「ご親切にどうも。なんなら祝い酒を用意しておいてもらってもいいんだぞ」
「そういう事は勝ってから言いな」
店主は煩わしそうに片手で私たちを追い払うように、奥の席に促した。
可哀相に何も知らない馬鹿な輩たちは周囲にいた客まで巻き込んで、わざわざ私たちの得意なカードを用意してくれる。
いかにも古びて薄汚れているが、これを使っている理由は一つだ。
手に馴染んでいるからこそ、やりやすいのだ。
イカサマを。
「そっちのボウズはどうすんだ!高みの見物か?」
奴らの一人がアルを挑発する。
ああ、本当に、無知とは愚かだ。
「心配しなくてもディーは負けないよ。ただし、イカサマされたら困るからね。僕がディーラーをしようか」
「「!?」」
「おや、もしかして図星だった?イカサマしなきゃ勝てないなんて、臆病者の負け犬じゃないか」
「何だと!?」
「騙してなんぼの勝負しかしてなかったわけ?だらしないなぁ」
「っこの、クソガキがぁっ!!」
明らかに挑発だと分かるアルの言葉に、数人が殴りかかる。
しかしどれも一本調子の攻撃で、大したスピードもない。
アルと二人でパシッと小気味よい音を立てて全てを掌で受け止めとめると、瞬時にその勢いのまま相手の方へ押し返してやった。
「「なっ!?」」
見事彼らは椅子に尻餅だ。
瞬時辺りは水を打ったかのように静まり返った。
「だから言っただろう?痛い目を見ると」
「相手を見た目で判断するからそういう事になるんだよ。どうするの?僕らとやる?それともこのまましっぽ巻いて逃げる?」
「いい加減にしやがれっ!!そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!!」
「じゃあ選んでよ。ブラックジャック?それともポーカー?」
完全に悪魔の微笑みを浮かべたアルは冷たい視線を彼らに向けた。
おかげで彼らの敵対心と怒りは頂点に達し、一層こちらに有利な状況が出来上がる。
頭に血の上った人間ほど潰しやすいものはない。
ただ本来の目的は彼らを完膚なきまでにのめすことではないのだが…どうやらアルは「ボウズ」と言われたことに心底腹を立てたようだ。
きれいな笑みを浮かべているが、瞳に怒りがめらめらと燃えている。
本気になったアルのおかげで十数分後、彼らの財布はすっからかんになる。
悔し紛れに散々他人から巻き上げた金貨まで賭けたものだから、数回の勝負で彼らの生活は明日をも知れぬものとなったわけだ。
全身から血の気の引いた彼らに対し、完全に主導権を握ったアルは絶対零度の視線で彼らを見据える。
蛇に睨まれたカエル状態の彼らは怯えたように私たちの様子を窺っていた。