伯爵令嬢は公爵様と恋をする
Vol.33(ディー視点)中編

「エル、怖いならやめよう。私は貴女を怖がらせたくないし、傷つけたくない。これ以上は私も我慢できそうにないからな、引き返すなら今のうちだ」
 健気にも私の願いを叶えようと必死でここにいるエルを、なだめるようにそっと抱きしめる。
 すると強張った身体から、徐々に力が抜けていった。
「あ、あの」
「ん?」
「後は、全部…ディー様にお任せすればいい、って…」
「それもゲルタに?」
 普段より低めの声で問えば、こくこくとエルは頷いた。
 しかも
「ディー様は、優しいから」
 なんて、純粋な信頼まで寄せて。
 応えるのが正しいのか、本能に従うのが正しいのか。
 何と難しい問題だろう。
 敢えてここは両立を目指すべきか。
 しばし逡巡していると華奢な指先が上着をくいっと引っ張る。
 気付いた時には恥じらい全開の一瞬の口づけ。
「必ず優しくする」
 そう宣言すれば、エルは心底恥ずかしそうに両手で顔を隠していた。
 肩を抱いて体を浮かせ、彼女の背中に手を回すとドレスを締め付けているリボンに触れる。
 シルクで出来たそれはしゅるしゅると音を立てて解けた。
 エルは相変わらず顔を隠して、大人しくされるがままだ。
 おかげでドレスも簡単に脱がせられそうだ。
 僅かに解放されたエルの柔肌がふるりと揺れる。
「エル、もうすぐ脱げるよ。顔から手を離してくれるか?」
「えっ、あ、あの、でも」
「恥ずかしい?」
「とっても!」
「怖さは?」
「こ、怖くはないけど、でもやっぱり、あの」
「じゃあキスしよう」
「えっ?」
 驚いて抵抗が弱まった隙に彼女の両腕を捕まえてシーツに縫い付ける。
 薔薇色の唇を何度も唇でなぞり、食むように口付けを重ねれば、エルの意識はその心地良さに集中し始めた。
 何度も何度も甘い唇を優しく貪りながら、そっと唇を下げていく。
 僅かに顔を覗かせている双丘にも口付けると、くすぐったいのかエルは小さく息を呑んで、つないだ手を一瞬強張らせた。
 顔から胸元までを何度も行き来すれば、徐々に強張りも溶けていき、ドレスを剥ぐために片手を離してもエルは抵抗しない。
 するりと剥ぎ取ったドレスの下には、メレンゲのように白くふわりとした二つの膨らみ。
 華奢な四肢は改めて庇護欲をそそる。
「そんなに見ちゃ、ダメ、です」
「どうして?とても綺麗だ」
「…うぅ」
 際限ない羞恥心から微かな呻き声を上げる彼女を見て笑みがこぼれる。
「見えるから恥ずかしいんだ」
 唯一付けられたままのグラスに手を伸ばして取り上げると、困惑したようにエルは視線を彷徨わせた。
 ほら、これで景色は全てぼやけたはずだ。
 でもエルは急に体を縮こまらせて私の胸を押し返し始める。
「イジワルです。ディー様には見えてるでしょう?」
「私まで見えなくなったら、貴女を気持ちよくさせてあげられなくなる」
「!?」
「これから先は恥ずかしいだけではないよ?たっぷり愛情を注ぐと、女性はとても気持ち良くなるらしい」
「でも」
「安心して。愛情なら無限に溢れてくるから、どこへでも注いであげられる。例えば、ここ、とか」
「ひゃっ」
 キスの余韻のせいなのか、それとも羞恥心のせいなのか、どちらか分からないが柔らかな胸の頂はその存在を主張し始めていた。
 そこへゆっくり舌を這わす。
 何度もそうして時折唇で食めば、エルは瞳をぎゅっと閉じたまま下唇をかみしめていた。
 ああ、そんなことしたら血が出てしまう。
「口を開いて。痛いだろう?」
 固く閉じた唇を開けさせるために口付けを落としながら舌でつつく。
 それでも頑なにエルは唇を噛んで何かに耐えようとするから、ぷっくりと膨らんだ赤い果実を指先で刺激することにした。
 掌で白い膨らみを持ち上げるようにもみしだき、その先を指先で優しく押し潰す。
「はぅっ」
 上げられた悲鳴と共に開いた唇をそのまま覆いながら、濡れた口内を舌先で探った。
 逃げるように奥へ引かれていく舌を絡めとり、その甘さに病み付きになる。
 どうやって呼吸をしたかなんて忘れた。
 彼女の胸に触れたままの手をどうしていたかなんて覚えていない。
 けれどそうして本能の赴くまま彼女を求め、甘やかな蜜に酔い、心地よい弾力を楽しんでいる間に、ふと
「あ…ッ」
 艶めいたエルの吐息が、先ほどまでの羞恥に支配されたものとは違う事に気付く。
「エル」
 もう一度聞きたくて、赤く腫れ上がった果実にわざと口づけた。
「んっ」
 息をつめて、それから小さく色付いた吐息を零す。
 気付けば全身が仄かに赤みを増している。
「ディー、様…っ」
 縋るようにこちらを見つめる瞳は、水の中に揺らめく水晶のように潤んでいた。
 いつの間にか彼女の細い腕が背中に回されている。
 唾液に濡れた白い肌が部屋の明かりを反射して、私の視線を釘付けにする。
 エルの温かな指先が、つ、と私の上着に触れた。
「ディー様も…」
「ん…?」
「ディー様も脱いで」
 力の抜けた手でエルは私の上着に指を這わせ、シャツのボタンへ辿り着く。
 視界がぼやけているせいだろうか。
 上手く外せないボタンと懸命に格闘する。
 そんな彼女を抱き起せば、ふるんと白い胸が跳ねた。
 視線をそこに奪われている間に、エルは顔を寄せてボタンを外し始めている。
 ひとつ、またひとつと外すと、ついに白いシャツが肌蹴た。
 瞬時、我に返ったらしいエルは再び両手で顔を隠した。
「やん」
 そんな声まで上げて。
 …。
 「やん」て何だ「やん」て。
 この底抜けに愛らしい生き物は私を本物の狼にしたいらしい。
 せっかく彼女が頑張ってくれたのだ、このままシャツを脱がせてもらおうじゃないか。
 思い立ってやんわりエルの両手をとった。
「脱がせてくれるんだろう?」
「ふぇっ?」
「ほら、あとはシャツを後ろに取り払ってくれればいい」
「あ、あのっ」
「エル」
「!!」
 しどろもどろし始めるエルに満面の笑みを浮かべてやると、いつぞやのやり取りを思い出したらしいエルは、意を決したようにシャツと上着に手をかけた。
 この状況で私が貴女を逃がすわけがない。
 正面から腕を伸ばして服を取り払うよう仕向けたが、エルはぴたりと動きを止めた。
 脱がせようとすればどうしたって体は近付く。
 ほとんど抱き着くようにしなければ服を脱がすのは困難だ。
 そして私が退くはずのない事も、エルは十分理解している。
 が、経験のない彼女にとって素肌同士をぴたりと触れ合わせるのは、これ以上ないほど恥ずかしい事に違いなかった。
 だから、これは手助けだ。
 彼女に腕を伸ばし、その柳腰をぐっと抱き寄せる。
「きゃ」
 自然と抱き着く形になったエルは、抵抗する間もなく私の腕の中。
 互いの体温が触れ合う部分から更に熱を増す。
 エルに逃げ場はない。
「どうする?」
「…ッ」
 わざと問えば、観念したのかエルは私の肩越しに少し身を乗り出して服を脱がし始めた。
 恥ずかしいだろうに、それでも丁寧に上着やシャツを脱がせてくれる。
「これで、いい…?」
「ああ、上出来だ」
 問いかけてきたエルに穏やかな口付けを贈ると
「ディー様」
 彼女は急に自分から抱き着いてくる。
 んなぁっ!?
「え、エル?」
 内心目玉が飛び出るほど驚いたのだが、必死に取り繕って彼女の様子を窺うと、エルは更に抱き着く腕に力を込めた。
 どどどどど、どうした!?
「こっちの方がいい、です」
「!?」
 突然の呟きに問い返す言葉も出ない。
 いや、そりゃ、嬉しいサプライズではあるけれども!
 「こっち」というのはどっちの事だ!?
 思わぬ反応に、最初から疼き始めていたあらぬ場所が余計に刺激される。
 しかもエルが僅かにでも身じろぐと、同時に動きを見せる小さな背中が、彼女を抱きしめる私の掌に振動を伝えるから、それさえもまた刺激に変わって「そこ」は反応を見せた。
 まずい、このままではエルに反応が伝わってしまう。
 そう焦ってもエルは微動だにしない。
「エル?」
 もう一度呼びかけると、エルは今自分がどんな状況になっているかを知らずに、再びぎゅっと抱き着いてくる。
 不思議な事に鍛え続けて発達した固い筋肉や頑丈な骨でも、女性の柔らかさは感じられるのだ。と妙な事に気付いたのだが、それよりも。
 この状況は非常にまずい。
 エルの体温も柔らかさも、そして私の手に反応して固くなった果実も、全ての感触がダイレクトに伝わってくる。
 一体何がどうしてこうなったのか。
 彼女はついさっきまで、これでもかというほど恥ずかしがっていたはずなのに、なぜ今はこんなにも大胆な行動に出ているんだ?
 無意識のうちに動きを止めた私を、エルもようやく不審に思ったのだろう。
 抱き着いたまま体をずらし、こちらを見上げてきた。
 そして。
「こうしていれば、ディー様にも見えないでしょう?」
 なんて、盛大な勘違いを披露してくれた。…見えないが、それ以上に扇情的だ。
 つまり見られている方が恥ずかしいから抱き着いて、エルとしては「隠した」のかもしれない。視覚以上に触覚の方が遥かに神経を刺激するというのに。
 が。
「この方が恥ずかしくないのか?」
「はい」
 そうか。ならば望み通りにしようではないか。
 片腕で彼女を抱きしめたまま、互いの間に手を差し込んで再び彼女のふんわりした胸を刺激する。
「ディ、ディー様!?」
「私もこの方が好きだ」
 そう告げると、何故かエルは「はぅっ」と小さな声を上げて、素直に体を預けた。

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