伯爵令嬢は公爵様と恋をする
Vol.33(ディー視点)後編



 どれくらいの時間そうしていただろう。
 本能と、あの用意されていた本に書かれていたことに従いながら、彼女の体を心ゆくまで可愛がり、そろそろ自分の限界を感じ始めた頃、そっと、ベッドに横たわるエルのまだ誰にも見せたことのないであろう泉に手を伸ばした。
「ひあっ、ダメ!ディー様!?」
 触れられるとは思ってもみなかったのだろう。
 一瞬でエルは体を強張らせ、両足を固く閉じて拒もうとする。
 けれどすっかり力の抜け切った身体では、抵抗にすらなっていない。
 簡単に割り開いて、目的の場所を見ながら慎重に指を差し入れる。
「やっ」
 見ていられないとばかりにエルは顔を隠したが、すんなり指を飲み込めるほどそこが潤っていたことに私は安堵した。
 本に寄れば、初めての女性は酷い痛みを伴うらしい。
 愛し合うための行為なのに何故女性だけが痛みを感じなければならないのか。
 心の底から愛しているからこそ一つになりたいと願っているのに、自分のせいで彼女を苦しめる事になるのは切なすぎる。
 痛みを遠ざけるためには、十分な準備が必要だ。
「エル、痛くない?」
「っんっ、ん」
 声にならない吐息を零して、エルは懸命に首を左右に振ってみせる。
 だが閉じられた瞳からは涙が伝う。本当に痛くないのだろうか。
 もう少しほぐれた方がいいのかもしれない。
 あの本にあった事を思い返す。躊躇いなどない。
 指で中の具合を確かめながら、秘められた芽を見つけて、そこに舌を這わした。
「きゃあっ」
 一際大きく体をのけぞらせてエルは悲鳴を上げる。
 同時に泉が強く指を締め付けた。
「痛かったか?」
 慌てて問いかければ、エルはふるふると首を横に振ってそれを否定した。
 けれど「やぁ…」と泣きながら声を上げている。
 やはり痛いのか?
 そう思ってゆっくり指を引き抜いた時だった。
「はぁんっ」
「!」
 甘く色付いた声が鼓膜を刺激する。
 ん…?
 これは、もしかして。
「気持ちいい、のか?」
「っ」
「エル、教えてくれ。痛い思いはさせたくない」
「ぅ…。痛く、ない、です」
 それが精一杯の答えだったのかもしれない。
 エルの言葉に私自身も限界を訴える。
「一つになろう、エル」
「…はい…」
 返事を受けて、ぐっと彼女の中へ押し入る。
 やはり狭い。
 エルは呼吸も忘れて必死に耐えているようだ。
 汗の浮かぶ額に手を当てて、あやす様に何度も髪を撫でてやる。
「すまない。あと、少し…だから」
「ん、は…い」
 躊躇えばその分痛みが長引いてしまうだろう。
 指先から甲、そして腕から肩、胸元から首筋、そして唇へと遡るように口付けてエルの意識を下腹部から逸らしていく。
 そうして力が抜けた一瞬に全てを収めきった。
 彼女の眼尻から流れ落ちる滴を拭う。
 真っ白になるほどきつくシーツを掴む手をとって私の背中へ回すよう導くと、エルはその手を引こうとした。
「ダメ、です」
「どうして?多分、抱き着いた方が楽だぞ」
「腕、回せないから」
「肩にしがみつけばいい」
「そんなことしたら、傷つけちゃう」
「エルの掌が傷付くよりずっとマシだ」
「や…」
「じゃあ、こうしよう」
 握られている掌を開かせて、そこに指を絡ませた。
 不安定になって小さな手を圧迫しすぎないか心配だが、エルは痛みに顔をしかめながらも嬉しそうに笑みを浮かべている。
 直後にはきゅんと切なげな締め付けがくる。
 少しは馴染んだだろうか。
 もうしばらく慣らしてやりたいと思うが、流石に私が限界だ。
 情けないがとても保ちそうにない。
 そのくらいエルの中は私を心地よく締め付けて奥へと導いていく。
 どう考えてもエルは辛いままだ。
 それなのにこれ以上コントロール出来そうにないとは、あれだけ優しくすると言っておきながら酷い男だ。
 けれどもうどうにもならない。
「エル…」
 視線だけで訴えて、緩やかに動き始める。
 それに彼女も懸命に応えながら、小さな呼吸を何度も繰り返していた。
 愛しさだけが胸に広がる。
 不意にエルの唇が微かに動いた。
 声にならない声で私を呼ぶ。
 それが堪らなく嬉しい。
 握りしめる手を強く握り返して応えると、ままならない呼吸の合間にふわりとエルは笑みを浮かべてくれた。
 心の奥から湧き上がるような感情が大きな波になって全身を満たしていく。
 聞こえるのは彼女の乱れた呼吸と、耐えきれず零れる愛らしい声。
 不意に浮遊感が襲ってくる。
「愛してる」
 目の前が真っ白になって心の中に溢れていた想いが弾ける寸前、それだけを彼女の耳元で囁いて、ぐっといつもよりずっと熱くなった体を抱きしめた。

 続く
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