伯爵令嬢は公爵様と恋をする
Vol.6(ディー視点)
初めて見せられた明らかな拒絶に痛んだのは、弾かれた手より、穏やかに脈打っていた心臓の方だった。
彼女が来てくれたことで、舞い上がりすぎていたのかもしれない。
エルフリーデを助けたのは彼女を守りたかったからだ。
借金も無理やりに取り付けられた婚約も、全てなかったことにして、彼女を守ろうと思ったからだ。
そのためには彼女を私の手元に置く必要があったし、何より私は彼女を妻に望んでいる。
手に入れたいと思っている。
だから彼女が私の提案を受け入れてくれた時は天にも昇る思いだった。
さらに、馬車の中ではずっと私を見つめてくるから、たまらず口づけてしまった。
彼女はそれを拒むことなく受け入れてくれたし、私が妻に望んでいることを知っても嫌がらなかったから、てっきり承知してくれたのだと思い込んでしまった。
もっといえば私にとって借金の肩代わりなど大したことではなかったが、それを気にして自分には財産も何もないのに私のために何ができるか、とまで言ってくれたから…都合よく受け止めてしまった。
律儀に恩返しをしようとしてくれる、なんて誠実でいじらしい人なのだろうかと、密かに感動していたほどだ。
…が、どうやら私はどこかで何かを間違えたらしい。
いつの間にか勘違いをしていたようだ。
目の前で必死に何か答えを求めていた彼女は、両目いっぱいに涙を浮かべてはっきり私を拒絶した。
妻にはならない、借金も自分で返す、放っておいてほしい、と。
顔を上げずに声もなく泣き崩れる。
私はこんなに悲しい泣き方を知らない。
胸を掻き毟られるように、激しい痛みが心臓を押し潰していく。
どうして。
そんなふうに泣かせたくないから、あの場所から助け出したはずなのに。
今、貴女を泣かせているのは間違いなく私だ。
私の気持ちに嘘はない。
貴女を守りたい気持ちも、欲する気持ちも、全て本心なのに。
どうして私は貴女を泣かせてしまったのだろう。
…それほど私を嫌っているのか…。
私は、どうすればいい?
どうすればこの想いを伝えられる?
どうすれば貴女を幸せにできる?
あの日のように、言葉を交わすにはどうすれば…?
「ディー、あのさ、どうして君は女性に対して…特に好きな女性に対してはまるでだめになってしまうんだろうね」
一晩中悶々と頭を悩ませた私にそんな呆れた態度を示すのは、幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染のアルトゥールだ。
午前中のティータイムに現れたアルはいつもと様子の違う私に気付いて事情を尋ねてくれた。
おかげで昨夜のやり取りを話し、胸の内を打ち明けることが出来たわけだが、何故か慰められるより先に呆れられてしまった。
女性が苦手なのはずいぶん昔からだというのに、アルはすっかり私を悪者扱いしている。
言葉にこそ出さないが、視線がそう言っているのだ。
「君が女性に興味を持ったのは良い傾向だけど、やり方を間違えれば君も傷付くだけだと思うよ?あまり先走るのはお勧めしないな」
「じゃあ私はやり方を間違えたのか?どんな風に?いつ?」
「…うーん…」
アルは困ったように言い淀み、カリカリとこめかみ辺りを掻く。
「何でもいいから教えてくれ!私は彼女を失いたくない!」
「気持ちは分かるけど…最初から、全部間違っていても挽回できるかな…」
「え」
「前にも言ったと思うけど、君は言葉が足らないから相手に誤解されることがある。君の言葉を何でも都合よく受け止める女性ばかりじゃないんだよ」
「つまり、どういうことなんだ?」
「大抵の女性は君に気に入られたいと思ってる。あわよくば君の恋人、もしくは奥さんの座に着きたいと思ってる。だから君の言葉を自分に有利なように解釈しようとするんだ。それは分かるだろう?」
「もちろん」
おかげで言葉に神経を尖らせる癖がついたんだ。
油断すればこちらの言葉を勝手に解釈されて、とんでもない展開になってしまうと学んだから。
口にするのはシンプルで分かりやすく、明快な言葉だけ。
遠回しな表現は曲解されるから、出来るだけ必要最低限の事実だけを伝える。
これが女性に対して一番確実な意志の伝え方だ。
「アルだって正解だと言っていたのに」
「そりゃ舞踏会なんかで近づいてくる女性には正しいよ。でもエルフリーデ嬢は違うでしょう。実際彼女は君の言葉を聞いて涙したんだよ?君は本心を伝えただけかもしれないけど、彼女に伝わったのは単なる事実だけだ」
「…事実、だけ?」
まるで謎かけだ。
アルの言葉はたまに私を迷宮に誘い込む。
出来るだけ噛み砕いて考えてみるけれど、特に色恋沙汰に関して経験豊富なアルの話は時に何よりも難解な問題になる。
同じくらいたくさんの女性と接しているはずなのだが、彼と私とでは何かが根本から違っているらしかった。
「彼女はつい昨日までずっと絶望の淵にいたはずだ。自分じゃどうすることも出来ない状況に追い詰められて、必死に色んなことを考えただろうね」
「それはそうだろう。相手はあのアウラー男爵だ」
「うん。ということは、少なからず彼女は男に対して警戒心を持っているだろうし、嫌悪感を抱いてもおかしくない」
「!?」
「さらに言うなら、今まで接点のなかった君に突然借金の肩代わりなんてされたら、彼女は訝しむだろうね。彼女は君の気持ちを知らないわけだし、その状況で妻になってほしいなんて言われたら、疑うと思うよ」
「うた、がう…」
何となくだが曖昧だったパズルのピースが繋がり始める。
「君が望んでいるのは「妻」という人形なんじゃないかってこと」
「な…!?」
「煩わしいあれこれから解放されるには「妻」が必要だって彼女は察してる。だから都合よく君のいう事を聞きそうな彼女を選んだんだって、多分思ってる」
「そんなこと…ッ」
絶対に有り得ない!
私が求めているのは彼女自身なんだ。
「妻」という立場を受け入れてくれるなら誰でもいいわけじゃない。
エルフリーデだから、妻になってほしいんだ。
それなのに、彼女にこの想いはちっとも伝わっていなかったなんて…!!
自分の言動を思い返して愕然としてしまう。
アルがくれたヒントを応用すれば、自分の言葉がどんな風に伝わったか分かる。
貴女がいてくれるなら「何もいらない」。
守りたくて、心から貴女を望んでいるから「手に入れるため」に借金を肩代わりして婚約を白紙にした。
貴女の話し方や考え方、反応の仕方や温度が今の私には「ちょうどいい」。
私が心から望んでいるのは貴女だから、貴女がいてくれて、妻になってくれるなら「それだけで十分」私は幸せなんだ。
貴女に「不自由はさせない」し、いつだって笑顔でいてほしいから、そのために「全て整えた」。
全てはエルフリーデ、貴女が好きだから。
自分の言動がいかに彼女に誤解を与えたのか、今ならよく分かる。
必要最低限の事実しか告げなかったせいで、自分の想いを一切告げていなかった。
それが大きな間違いだったのだ。
合点がいけば全て簡単に糸は解けていく。
けれどこれだけ盛大に誤解させてしまったものを、どうすれば解くことが出来るのか。
あんなに泣いて拒絶した彼女の気持ちを、こちらに向ける方法は一体…。
「ねえディー、彼女は今どうしてるの?」
「恐らく部屋にいると思うが…」
昨夜、泣き崩れた彼女を見て立ち尽くしていると、ゼルダがそっとやってきて彼女を客室に連れて行ってくれたのだ。
朝もそちらに朝食を運んでいたから、そこにいることは間違いないだろう。
姿を見てはいないが、イリーネも朝食後に寄っていたから二人で過ごしているかもしれない。
気付けば気付くほど情けない男だと自分でも思う。
自分の不器用さは自覚していたが、これほどだとは思っていなかった。
無意識に頭を抱えるようにして自己嫌悪に陥ってしまう。
すると見かねたアルは苦笑しながら私の肩に手を置いた。
「まだ希望が潰えたわけじゃないよ」
「え?」
「彼女が昨夜泣いて拒絶したってことは、それだけ感情を見せてくれたってことでしょう。逆に言えば君の言葉に心が動いたってこと。君に関心を持ってるのは確かだよ」
それが本当なら嬉しいが、それこそ自分勝手な解釈にならないだろうか。
「心の底から私を嫌っているとすれば、彼女の反応は当然だと思うが」
「まあね。でも愛情の反対は無関心て知ってる?」
「無関心?嫌悪ではなくて?」
「世の中には好きな人がいて、嫌いな人がいて、どうでもいい人がいるんじゃない?」
「…確かに」
思い当たる節がある。
たくさんの人と出会って接しているはずだが、その大半は好きでも嫌いでもない。
眼中にもないし、気に掛けることもない「どうでもいい」集団だ。
「それにね、本当に嫌いだったら泣く必要もないよ。遠ざかればいいだけなんだから。本心を悟らせることもしないだろうし、まして感情を剥き出しにすることもない。となれば君がやるべきことは一つ、だろ?」
その言葉が躊躇い続けた臆病な心をポンと押しだす。
「とにかく誤解を解く。きちんと想いを伝えなきゃな」
善は急げとばかりに立ち上がり、彼女のいる部屋を見上げた。
どんなに時間がかかってもいい。
想いを伝えるのにいくつもの言葉が必要なら全て使おう。
彼女の想いがこちらに向いてくれるなら、それくらいどうということはない。
「アル、ありがとう」
ティータイムを途中で切り上げることになるけれど、礼を告げる私を見るアルの視線は温かかった。
片手を軽く上げて、早く行けと促される。
希望を見出した心は随分と軽くなっていた。
続く
初めて見せられた明らかな拒絶に痛んだのは、弾かれた手より、穏やかに脈打っていた心臓の方だった。
彼女が来てくれたことで、舞い上がりすぎていたのかもしれない。
エルフリーデを助けたのは彼女を守りたかったからだ。
借金も無理やりに取り付けられた婚約も、全てなかったことにして、彼女を守ろうと思ったからだ。
そのためには彼女を私の手元に置く必要があったし、何より私は彼女を妻に望んでいる。
手に入れたいと思っている。
だから彼女が私の提案を受け入れてくれた時は天にも昇る思いだった。
さらに、馬車の中ではずっと私を見つめてくるから、たまらず口づけてしまった。
彼女はそれを拒むことなく受け入れてくれたし、私が妻に望んでいることを知っても嫌がらなかったから、てっきり承知してくれたのだと思い込んでしまった。
もっといえば私にとって借金の肩代わりなど大したことではなかったが、それを気にして自分には財産も何もないのに私のために何ができるか、とまで言ってくれたから…都合よく受け止めてしまった。
律儀に恩返しをしようとしてくれる、なんて誠実でいじらしい人なのだろうかと、密かに感動していたほどだ。
…が、どうやら私はどこかで何かを間違えたらしい。
いつの間にか勘違いをしていたようだ。
目の前で必死に何か答えを求めていた彼女は、両目いっぱいに涙を浮かべてはっきり私を拒絶した。
妻にはならない、借金も自分で返す、放っておいてほしい、と。
顔を上げずに声もなく泣き崩れる。
私はこんなに悲しい泣き方を知らない。
胸を掻き毟られるように、激しい痛みが心臓を押し潰していく。
どうして。
そんなふうに泣かせたくないから、あの場所から助け出したはずなのに。
今、貴女を泣かせているのは間違いなく私だ。
私の気持ちに嘘はない。
貴女を守りたい気持ちも、欲する気持ちも、全て本心なのに。
どうして私は貴女を泣かせてしまったのだろう。
…それほど私を嫌っているのか…。
私は、どうすればいい?
どうすればこの想いを伝えられる?
どうすれば貴女を幸せにできる?
あの日のように、言葉を交わすにはどうすれば…?
「ディー、あのさ、どうして君は女性に対して…特に好きな女性に対してはまるでだめになってしまうんだろうね」
一晩中悶々と頭を悩ませた私にそんな呆れた態度を示すのは、幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染のアルトゥールだ。
午前中のティータイムに現れたアルはいつもと様子の違う私に気付いて事情を尋ねてくれた。
おかげで昨夜のやり取りを話し、胸の内を打ち明けることが出来たわけだが、何故か慰められるより先に呆れられてしまった。
女性が苦手なのはずいぶん昔からだというのに、アルはすっかり私を悪者扱いしている。
言葉にこそ出さないが、視線がそう言っているのだ。
「君が女性に興味を持ったのは良い傾向だけど、やり方を間違えれば君も傷付くだけだと思うよ?あまり先走るのはお勧めしないな」
「じゃあ私はやり方を間違えたのか?どんな風に?いつ?」
「…うーん…」
アルは困ったように言い淀み、カリカリとこめかみ辺りを掻く。
「何でもいいから教えてくれ!私は彼女を失いたくない!」
「気持ちは分かるけど…最初から、全部間違っていても挽回できるかな…」
「え」
「前にも言ったと思うけど、君は言葉が足らないから相手に誤解されることがある。君の言葉を何でも都合よく受け止める女性ばかりじゃないんだよ」
「つまり、どういうことなんだ?」
「大抵の女性は君に気に入られたいと思ってる。あわよくば君の恋人、もしくは奥さんの座に着きたいと思ってる。だから君の言葉を自分に有利なように解釈しようとするんだ。それは分かるだろう?」
「もちろん」
おかげで言葉に神経を尖らせる癖がついたんだ。
油断すればこちらの言葉を勝手に解釈されて、とんでもない展開になってしまうと学んだから。
口にするのはシンプルで分かりやすく、明快な言葉だけ。
遠回しな表現は曲解されるから、出来るだけ必要最低限の事実だけを伝える。
これが女性に対して一番確実な意志の伝え方だ。
「アルだって正解だと言っていたのに」
「そりゃ舞踏会なんかで近づいてくる女性には正しいよ。でもエルフリーデ嬢は違うでしょう。実際彼女は君の言葉を聞いて涙したんだよ?君は本心を伝えただけかもしれないけど、彼女に伝わったのは単なる事実だけだ」
「…事実、だけ?」
まるで謎かけだ。
アルの言葉はたまに私を迷宮に誘い込む。
出来るだけ噛み砕いて考えてみるけれど、特に色恋沙汰に関して経験豊富なアルの話は時に何よりも難解な問題になる。
同じくらいたくさんの女性と接しているはずなのだが、彼と私とでは何かが根本から違っているらしかった。
「彼女はつい昨日までずっと絶望の淵にいたはずだ。自分じゃどうすることも出来ない状況に追い詰められて、必死に色んなことを考えただろうね」
「それはそうだろう。相手はあのアウラー男爵だ」
「うん。ということは、少なからず彼女は男に対して警戒心を持っているだろうし、嫌悪感を抱いてもおかしくない」
「!?」
「さらに言うなら、今まで接点のなかった君に突然借金の肩代わりなんてされたら、彼女は訝しむだろうね。彼女は君の気持ちを知らないわけだし、その状況で妻になってほしいなんて言われたら、疑うと思うよ」
「うた、がう…」
何となくだが曖昧だったパズルのピースが繋がり始める。
「君が望んでいるのは「妻」という人形なんじゃないかってこと」
「な…!?」
「煩わしいあれこれから解放されるには「妻」が必要だって彼女は察してる。だから都合よく君のいう事を聞きそうな彼女を選んだんだって、多分思ってる」
「そんなこと…ッ」
絶対に有り得ない!
私が求めているのは彼女自身なんだ。
「妻」という立場を受け入れてくれるなら誰でもいいわけじゃない。
エルフリーデだから、妻になってほしいんだ。
それなのに、彼女にこの想いはちっとも伝わっていなかったなんて…!!
自分の言動を思い返して愕然としてしまう。
アルがくれたヒントを応用すれば、自分の言葉がどんな風に伝わったか分かる。
貴女がいてくれるなら「何もいらない」。
守りたくて、心から貴女を望んでいるから「手に入れるため」に借金を肩代わりして婚約を白紙にした。
貴女の話し方や考え方、反応の仕方や温度が今の私には「ちょうどいい」。
私が心から望んでいるのは貴女だから、貴女がいてくれて、妻になってくれるなら「それだけで十分」私は幸せなんだ。
貴女に「不自由はさせない」し、いつだって笑顔でいてほしいから、そのために「全て整えた」。
全てはエルフリーデ、貴女が好きだから。
自分の言動がいかに彼女に誤解を与えたのか、今ならよく分かる。
必要最低限の事実しか告げなかったせいで、自分の想いを一切告げていなかった。
それが大きな間違いだったのだ。
合点がいけば全て簡単に糸は解けていく。
けれどこれだけ盛大に誤解させてしまったものを、どうすれば解くことが出来るのか。
あんなに泣いて拒絶した彼女の気持ちを、こちらに向ける方法は一体…。
「ねえディー、彼女は今どうしてるの?」
「恐らく部屋にいると思うが…」
昨夜、泣き崩れた彼女を見て立ち尽くしていると、ゼルダがそっとやってきて彼女を客室に連れて行ってくれたのだ。
朝もそちらに朝食を運んでいたから、そこにいることは間違いないだろう。
姿を見てはいないが、イリーネも朝食後に寄っていたから二人で過ごしているかもしれない。
気付けば気付くほど情けない男だと自分でも思う。
自分の不器用さは自覚していたが、これほどだとは思っていなかった。
無意識に頭を抱えるようにして自己嫌悪に陥ってしまう。
すると見かねたアルは苦笑しながら私の肩に手を置いた。
「まだ希望が潰えたわけじゃないよ」
「え?」
「彼女が昨夜泣いて拒絶したってことは、それだけ感情を見せてくれたってことでしょう。逆に言えば君の言葉に心が動いたってこと。君に関心を持ってるのは確かだよ」
それが本当なら嬉しいが、それこそ自分勝手な解釈にならないだろうか。
「心の底から私を嫌っているとすれば、彼女の反応は当然だと思うが」
「まあね。でも愛情の反対は無関心て知ってる?」
「無関心?嫌悪ではなくて?」
「世の中には好きな人がいて、嫌いな人がいて、どうでもいい人がいるんじゃない?」
「…確かに」
思い当たる節がある。
たくさんの人と出会って接しているはずだが、その大半は好きでも嫌いでもない。
眼中にもないし、気に掛けることもない「どうでもいい」集団だ。
「それにね、本当に嫌いだったら泣く必要もないよ。遠ざかればいいだけなんだから。本心を悟らせることもしないだろうし、まして感情を剥き出しにすることもない。となれば君がやるべきことは一つ、だろ?」
その言葉が躊躇い続けた臆病な心をポンと押しだす。
「とにかく誤解を解く。きちんと想いを伝えなきゃな」
善は急げとばかりに立ち上がり、彼女のいる部屋を見上げた。
どんなに時間がかかってもいい。
想いを伝えるのにいくつもの言葉が必要なら全て使おう。
彼女の想いがこちらに向いてくれるなら、それくらいどうということはない。
「アル、ありがとう」
ティータイムを途中で切り上げることになるけれど、礼を告げる私を見るアルの視線は温かかった。
片手を軽く上げて、早く行けと促される。
希望を見出した心は随分と軽くなっていた。
続く