伯爵令嬢は公爵様と恋をする
Vol.8
必死の形相で勢いよく現れた彼に向けられたのは
「お兄様のおバカさん!!」
というイリーネ様の可愛いお叱りだった。
その場にいる全員の目が丸くなる。
一瞬何が起こったのか分からず視線は自然と二人に向いた。
イリーネ様は車いすの上でぷっくりと頬を膨らませ、両手を腰に当てて顔をしかめている。
視線は真っ直ぐ彼女の兄であるディートリヒ様に向けられていて、まるで母親が幼い我が子を叱っているかのような様相を呈していた。
ディートリヒ様の勢いはすぐさま収まり、ふと私を見たかと思うとすぐに何かを察したらしく、くるりと踵を返して背を向けた。
何をしているの?
二人のやり取りに合点がいかない私は首を傾げる。
するとイリーネ様は彼に近付いて小さな両手でその大きな背中をぐっと押しやり始めた。
「イ、イリーネ?」
「女性の部屋にノックもしないで入ってくるなんて!ジェントルマンのする事じゃないわ!しかもエルお姉様はまだお食事の途中だし、女性には支度を整える時間も必要なのよ?もう少しデリカシーを持ってちょうだい」
「そうか、そうだな。すまないイリーネの言う通りだ」
彼女の迫力に気圧されたのか、ディートリヒ様は神妙な顔で頷く。
イリーネ様の顔に浮かんだのは満足そうな微笑み。
「分かってくれればいいの。お姉様の支度が整ったら呼んであげるから、部屋の外で待っててね」
「ああ」
そうして、ぱたりとドアが閉まる。
もちろんディートリヒ様は廊下で待機となったようだ。
泣く子も黙る公爵様だと思っていたけれど、どうやら違ったみたい。
可愛い妹には弱いのね。
おかげで私も助かった。
起き抜けの夜着にガウンを羽織った姿で彼に合うのはやっぱり恥ずかしいもの。
でも廊下に締め出されてしまった彼を思うと申し訳ない気もする。
そう思ったのが顔に出ていたのだろうか、
「お兄様なら大丈夫よ。待つのは得意だから」
なんて、イリーネ様はお茶目な笑みを浮かべて言った。
ふふ、不思議な兄妹。
完全無欠に見えて実は不器用だという兄に、もって生まれた愛らしさだけでなくしっかり者の妹。
彼の足りない部分をイリーネ様がしっかり補填している。
今までも互いに支え合いながらここまで生きてきたんだろう。
「何だか羨ましいですね」
「え?」
「ディートリヒ様とイリーネ様のように、私にも兄妹がいたらよかった」
「まあ!それなら益々お兄様に頑張ってもらわなきゃ」
そう言ってはしゃぐ姿はさっきまでと打って変わって年相応の無邪気さでいっぱいだ。
「さてと、お喋りばかりしているとお兄様も待ちくたびれちゃうわね。ゼルダ、お姉様のお支度をお願いします。お兄様が一番に選んだドレスにして差し上げてね」
「承知いたしました」
「それじゃあお姉様、お兄様をよろしくお願いします」
「え、あ、はい…」
深々と頭を下げて言うイリーネ様は凛とした空気を一瞬で纏い、由緒正しきご令嬢の礼儀正しさを持って退室していった。
残された私にゼルダがクローゼットから一着のドレスを用意してくれる。
ディートリヒ様が一番に選んだというドレスは、真紅の布地に薄いピンクのレースが柔らかくあしらわれた薔薇のようなベルラインドレスで、着つけてから少し動くだけですそがゆったりと揺れる。
まるで花弁が咲くみたいに、ふわりと。
ゼルダはドレスに合わせた真珠のネックレスとイヤリングを着けてくれて、髪は丁寧に編み込みながら後ろ髪を背中に流してくれた。
随分印象が和らいだ気がする。
鏡の中の自分からは昨日まであった刺々しい雰囲気が消えて顔色も良い。
完全ではないけれど、憑き物が落ちたようなすっきりした顔をしている。
いつもかけている眼鏡も外せたらいいのだけど、外したら最後、相手の顔が分からなくなってしまう。
イリーネ様の言う通りなら、本当のディートリヒ様はかなり不器用な人だから、彼の言葉だけでなく表情や声の調子や仕草までよく見ておかなきゃ。
そうしなきゃ彼の本心を見逃してしまうかもしれない。
大切な場面だもの、ぼやけた視界じゃ真実は見えてこなくなる。
裸眼でも近付けば見えないことはないけれど…はっきり見えるのはほとんど鼻がくっつきそうなくらいの距離だもの。
考えただけで昨夜の口づけを思い出してしまいそう。
自然と頬が熱くなっちゃう。
支度を進めてくれるゼルダは、そんな私に気付いただろうか。
「出来ましたよ。さあ、旦那様をお呼びしましょうね」
言いながら私を見つめる瞳は、どこまでも穏やかで温かかった。
扉の向こうに彼がいる。
彼は何を話してくれるんだろう。
期待と不安が入り混じる。
そしてゼルダが彼を呼んだ時、ふり返るあの深く青い瞳と視線が重なった。
小さく息を呑んだのが見える。
部屋に一歩踏み出したまま微動だにしない彼に、まるで時間が止まったのかと錯覚してしまうほどだ。
背中越しに静かに扉が閉まり、中にいるのは二人だけ。
ディートリヒ様は我に返るとこちらに歩み寄り、そのまま、長くたくましい腕でそっと私を抱きしめた。
「昨夜の言葉に嘘はない。ただ、これだけは信じてほしい。私は、貴女だから助けた。貴女だから手に入れたいと思った。…私の妻になってほしいのは、貴女だけなんだ」
「私、だけ?」
「ああ。言葉を交わしたのはほんの短い時間だったが、もっと貴女の事を知りたいと思った。同時に私の事も、知ってほしい、分かってほしいと願った。そんな風に感じたのは貴女が初めてなんだ」
懇願するような、切羽詰まった訴えに切なさがにじむ。
ディートリヒ様が望んでくれたのは私自身なんだと切実に伝わってくる。
けれど私はまだ困惑していた。
こんなふうに心から望まれるほど、彼と接した記憶がない。
「一体いつからそんな風に?あなたと直接お会いしたことはないのに」
そう問いかけると、少しだけ彼の腕に力が入る。
「会っているよ、言葉も交わした。あの時の貴女は眼鏡をしていなかったから、私に気付かなかったかもしれない」
「え…?」
「月明かりの下で会ったんだ。貴女は藍色のドレスを着て、一人で月を見上げていた。パーティーを抜け出した貴女は親孝行のために参加したんだと言っていた。女性は他にもいるから自分は花嫁候補にならなくてもいいと」
「あ…そんな、それじゃああの時の…」
彼の話には心当たりがあった。
記憶が蘇ってくる。
あの夜話しかけてきた一人の男性がいた。
公爵様にもパーティーにも興味のない私に、不思議そうに、でもどこか面白そうにいくつか問いかけてきた人。
てっきり招待客の一人だと思っていたけど、まさか…あの人が…公爵様本人だったの…?
「私は嬉しかったよ。興味がないと言われたのは複雑な気持ちだったけど、上辺だけの言葉や反応よりずっと気持ちがよかった」
「どうして?とても失礼な態度をとったのに。あの時も…その、昨夜も」
「どちらも気にしていない。あ、いや、昨夜の出来事はショックだったが、それも自業自得だ。貴女に落ち度はない。私は浮かれすぎていたんだ。上手く言葉も交わせないほど舞い上がって、貴女を傷つけた」
「…あなたが求めているのは都合のいい人形なんだと思ったから…」
私自身を求めてくれているなんて思ってもみなかったの。
冷静であったなら、もしかして、あなたの本心に気付けたかもしれないけど、私もすっかりマイナス思考にどっぷり浸かっていたから、ある意味盲目だった。
だから多分、昨夜の事はおあいこなのかもしれない。
嬉しさから暴走した彼と、悲劇にとらわれすぎて何も見ようとしなかった私と。
「似た者同士、です。きっと」
「うん?」
「私もディートリヒ様も、不器用で猪突猛進で」
「なるほど、確かに」
「お互い言葉も不自由だわ」
「貴女も?」
「ええ。だってディートリヒ様の言葉だけを取り上げて、その裏に心があることを忘れていたもの。言葉は想いのほんの一角でしかない、って知っていたのに」
何百もの物語を読んで、人の心がどれほど複雑で繊細なのかも分かっていたのに、いざ自分の番となると本当は何も理解していなかったのかもしれないと思うほどに疎くなる。
そんな私も彼と同じくらい不器用なのかも。
言葉は一番厄介な壁なんだわ。
いくらでも解釈の仕方はあるし、互いの想いが同じでなければ言葉一つでこんなにもすれ違ってしまうもの。
言葉だけで想いを図るのは難しい。
だから。
「ディートリヒ様、こうしませんか?」
「どう?」
「心を見せてください」
「?」
「言葉は必要な分だけでいいから、心を素直に出すんです。きっとそれは視線や仕草、それに態度になって見えるようになるから」
「…私の心も、見えるだろうか」
「きっと。代わりに、分からない時は質問します。その時は教えてくださいね、あなたの気持ちを」
「ああ、それなら伝えられそうだ。私もきちんと言葉や行動で伝えられるよう努力するよ」
安心したディートリヒ様はそう言って、私を抱きしめていた腕の一方を上げ、後頭部をやさしく覆いながら引き寄せる。
温かい彼の体温が近付く。
言葉を交わすよりこの方がずっといい。
私はこの温もりを信じよう。
優しく包み込んでくれる、逞しい腕を信じよう。
そして。
「エルフリーデ」
いつも真っ直ぐ見つめてくれるこの穏やかで深い瞳を、信じよう。
そうして互いの唇が重なる頃、私はようやく彼の背に腕を回した。
続く
必死の形相で勢いよく現れた彼に向けられたのは
「お兄様のおバカさん!!」
というイリーネ様の可愛いお叱りだった。
その場にいる全員の目が丸くなる。
一瞬何が起こったのか分からず視線は自然と二人に向いた。
イリーネ様は車いすの上でぷっくりと頬を膨らませ、両手を腰に当てて顔をしかめている。
視線は真っ直ぐ彼女の兄であるディートリヒ様に向けられていて、まるで母親が幼い我が子を叱っているかのような様相を呈していた。
ディートリヒ様の勢いはすぐさま収まり、ふと私を見たかと思うとすぐに何かを察したらしく、くるりと踵を返して背を向けた。
何をしているの?
二人のやり取りに合点がいかない私は首を傾げる。
するとイリーネ様は彼に近付いて小さな両手でその大きな背中をぐっと押しやり始めた。
「イ、イリーネ?」
「女性の部屋にノックもしないで入ってくるなんて!ジェントルマンのする事じゃないわ!しかもエルお姉様はまだお食事の途中だし、女性には支度を整える時間も必要なのよ?もう少しデリカシーを持ってちょうだい」
「そうか、そうだな。すまないイリーネの言う通りだ」
彼女の迫力に気圧されたのか、ディートリヒ様は神妙な顔で頷く。
イリーネ様の顔に浮かんだのは満足そうな微笑み。
「分かってくれればいいの。お姉様の支度が整ったら呼んであげるから、部屋の外で待っててね」
「ああ」
そうして、ぱたりとドアが閉まる。
もちろんディートリヒ様は廊下で待機となったようだ。
泣く子も黙る公爵様だと思っていたけれど、どうやら違ったみたい。
可愛い妹には弱いのね。
おかげで私も助かった。
起き抜けの夜着にガウンを羽織った姿で彼に合うのはやっぱり恥ずかしいもの。
でも廊下に締め出されてしまった彼を思うと申し訳ない気もする。
そう思ったのが顔に出ていたのだろうか、
「お兄様なら大丈夫よ。待つのは得意だから」
なんて、イリーネ様はお茶目な笑みを浮かべて言った。
ふふ、不思議な兄妹。
完全無欠に見えて実は不器用だという兄に、もって生まれた愛らしさだけでなくしっかり者の妹。
彼の足りない部分をイリーネ様がしっかり補填している。
今までも互いに支え合いながらここまで生きてきたんだろう。
「何だか羨ましいですね」
「え?」
「ディートリヒ様とイリーネ様のように、私にも兄妹がいたらよかった」
「まあ!それなら益々お兄様に頑張ってもらわなきゃ」
そう言ってはしゃぐ姿はさっきまでと打って変わって年相応の無邪気さでいっぱいだ。
「さてと、お喋りばかりしているとお兄様も待ちくたびれちゃうわね。ゼルダ、お姉様のお支度をお願いします。お兄様が一番に選んだドレスにして差し上げてね」
「承知いたしました」
「それじゃあお姉様、お兄様をよろしくお願いします」
「え、あ、はい…」
深々と頭を下げて言うイリーネ様は凛とした空気を一瞬で纏い、由緒正しきご令嬢の礼儀正しさを持って退室していった。
残された私にゼルダがクローゼットから一着のドレスを用意してくれる。
ディートリヒ様が一番に選んだというドレスは、真紅の布地に薄いピンクのレースが柔らかくあしらわれた薔薇のようなベルラインドレスで、着つけてから少し動くだけですそがゆったりと揺れる。
まるで花弁が咲くみたいに、ふわりと。
ゼルダはドレスに合わせた真珠のネックレスとイヤリングを着けてくれて、髪は丁寧に編み込みながら後ろ髪を背中に流してくれた。
随分印象が和らいだ気がする。
鏡の中の自分からは昨日まであった刺々しい雰囲気が消えて顔色も良い。
完全ではないけれど、憑き物が落ちたようなすっきりした顔をしている。
いつもかけている眼鏡も外せたらいいのだけど、外したら最後、相手の顔が分からなくなってしまう。
イリーネ様の言う通りなら、本当のディートリヒ様はかなり不器用な人だから、彼の言葉だけでなく表情や声の調子や仕草までよく見ておかなきゃ。
そうしなきゃ彼の本心を見逃してしまうかもしれない。
大切な場面だもの、ぼやけた視界じゃ真実は見えてこなくなる。
裸眼でも近付けば見えないことはないけれど…はっきり見えるのはほとんど鼻がくっつきそうなくらいの距離だもの。
考えただけで昨夜の口づけを思い出してしまいそう。
自然と頬が熱くなっちゃう。
支度を進めてくれるゼルダは、そんな私に気付いただろうか。
「出来ましたよ。さあ、旦那様をお呼びしましょうね」
言いながら私を見つめる瞳は、どこまでも穏やかで温かかった。
扉の向こうに彼がいる。
彼は何を話してくれるんだろう。
期待と不安が入り混じる。
そしてゼルダが彼を呼んだ時、ふり返るあの深く青い瞳と視線が重なった。
小さく息を呑んだのが見える。
部屋に一歩踏み出したまま微動だにしない彼に、まるで時間が止まったのかと錯覚してしまうほどだ。
背中越しに静かに扉が閉まり、中にいるのは二人だけ。
ディートリヒ様は我に返るとこちらに歩み寄り、そのまま、長くたくましい腕でそっと私を抱きしめた。
「昨夜の言葉に嘘はない。ただ、これだけは信じてほしい。私は、貴女だから助けた。貴女だから手に入れたいと思った。…私の妻になってほしいのは、貴女だけなんだ」
「私、だけ?」
「ああ。言葉を交わしたのはほんの短い時間だったが、もっと貴女の事を知りたいと思った。同時に私の事も、知ってほしい、分かってほしいと願った。そんな風に感じたのは貴女が初めてなんだ」
懇願するような、切羽詰まった訴えに切なさがにじむ。
ディートリヒ様が望んでくれたのは私自身なんだと切実に伝わってくる。
けれど私はまだ困惑していた。
こんなふうに心から望まれるほど、彼と接した記憶がない。
「一体いつからそんな風に?あなたと直接お会いしたことはないのに」
そう問いかけると、少しだけ彼の腕に力が入る。
「会っているよ、言葉も交わした。あの時の貴女は眼鏡をしていなかったから、私に気付かなかったかもしれない」
「え…?」
「月明かりの下で会ったんだ。貴女は藍色のドレスを着て、一人で月を見上げていた。パーティーを抜け出した貴女は親孝行のために参加したんだと言っていた。女性は他にもいるから自分は花嫁候補にならなくてもいいと」
「あ…そんな、それじゃああの時の…」
彼の話には心当たりがあった。
記憶が蘇ってくる。
あの夜話しかけてきた一人の男性がいた。
公爵様にもパーティーにも興味のない私に、不思議そうに、でもどこか面白そうにいくつか問いかけてきた人。
てっきり招待客の一人だと思っていたけど、まさか…あの人が…公爵様本人だったの…?
「私は嬉しかったよ。興味がないと言われたのは複雑な気持ちだったけど、上辺だけの言葉や反応よりずっと気持ちがよかった」
「どうして?とても失礼な態度をとったのに。あの時も…その、昨夜も」
「どちらも気にしていない。あ、いや、昨夜の出来事はショックだったが、それも自業自得だ。貴女に落ち度はない。私は浮かれすぎていたんだ。上手く言葉も交わせないほど舞い上がって、貴女を傷つけた」
「…あなたが求めているのは都合のいい人形なんだと思ったから…」
私自身を求めてくれているなんて思ってもみなかったの。
冷静であったなら、もしかして、あなたの本心に気付けたかもしれないけど、私もすっかりマイナス思考にどっぷり浸かっていたから、ある意味盲目だった。
だから多分、昨夜の事はおあいこなのかもしれない。
嬉しさから暴走した彼と、悲劇にとらわれすぎて何も見ようとしなかった私と。
「似た者同士、です。きっと」
「うん?」
「私もディートリヒ様も、不器用で猪突猛進で」
「なるほど、確かに」
「お互い言葉も不自由だわ」
「貴女も?」
「ええ。だってディートリヒ様の言葉だけを取り上げて、その裏に心があることを忘れていたもの。言葉は想いのほんの一角でしかない、って知っていたのに」
何百もの物語を読んで、人の心がどれほど複雑で繊細なのかも分かっていたのに、いざ自分の番となると本当は何も理解していなかったのかもしれないと思うほどに疎くなる。
そんな私も彼と同じくらい不器用なのかも。
言葉は一番厄介な壁なんだわ。
いくらでも解釈の仕方はあるし、互いの想いが同じでなければ言葉一つでこんなにもすれ違ってしまうもの。
言葉だけで想いを図るのは難しい。
だから。
「ディートリヒ様、こうしませんか?」
「どう?」
「心を見せてください」
「?」
「言葉は必要な分だけでいいから、心を素直に出すんです。きっとそれは視線や仕草、それに態度になって見えるようになるから」
「…私の心も、見えるだろうか」
「きっと。代わりに、分からない時は質問します。その時は教えてくださいね、あなたの気持ちを」
「ああ、それなら伝えられそうだ。私もきちんと言葉や行動で伝えられるよう努力するよ」
安心したディートリヒ様はそう言って、私を抱きしめていた腕の一方を上げ、後頭部をやさしく覆いながら引き寄せる。
温かい彼の体温が近付く。
言葉を交わすよりこの方がずっといい。
私はこの温もりを信じよう。
優しく包み込んでくれる、逞しい腕を信じよう。
そして。
「エルフリーデ」
いつも真っ直ぐ見つめてくれるこの穏やかで深い瞳を、信じよう。
そうして互いの唇が重なる頃、私はようやく彼の背に腕を回した。
続く