おかしな二人


朝から仕事だった英嗣は、あたしを寝かせたあと、朝食も摂らず静かにマンションを出たよう。

[ 帰りは遅くなるから、今日は何もせんと一日ゆっくりしとれ ]

不器用な言葉のメモが、テーブルの上に一枚置かれていた。

「優しいよね……」

ポツリ洩らし、シャワーを浴びる。
目をギュッとつぶり、はれた瞼に強い水圧の水飛沫を浴びせた。

凌に後ろから抱きつかれた感触や、耳元にかかった熱い吐息。
走り去る背中に刺さる、悲痛な呼び声。

その総てを流してしまいたくて、しばらくぼんやりとシャワーに打たれつづける。
だけど、それが流れて消えてしまうことがないのが今私に起こっている現実だ。

ポタポタと滴る雫を無造作にタオルで拭い、着替えを済ませる。
開け放たれたカーテンの向こうからは、冬だというのに目を瞬かせてしまいたくなるような陽光が入り込んできていた。


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