花火
余裕を装って、本棚に目を移しながら問う。
「──君、どこのクラスの子?俺、教えたことないよな?」
「はい。田辺センセイには習ったことはないです。でも、他のクラスの子からセンセイの評判は聞いてるんですよ?すごく素敵なセンセイだって」
「……それは嬉しいね」
リンが言っている言葉が本当なら、素直に嬉しい。
めんどくさいと思うことは多いけど、結局この仕事が好きなんだし。
「私もセンセイにいろいろ教えてもらいたかったです。でも、もう無理ですね……あ、私は3年2組の中村凛って言います」
「中村、ね」
──凛は本名だったのか……。
ちらりとリンに目線を移す。
優等生の笑みを穏やかに浮かべるリン──いや、中村。
きっと、あんな出逢い方してなかったら、中村は『素直ないい生徒』って認識だったんだろうな。
でも、ああなってしまった以上、そんな風に思うことなんて不可能だ。