不滅の妖怪を御存じ?





「そもそも人間は個々にこだわりすぎだと思うのだ。個々が生と死を絶え間無く繰り返すことによって人間という種の存続があるというのに、個一つの延命にこだわってどうするのだ。」


弓月の顔が赤くなっている。


「桜は散り際が美しいのだ。いつまでも枝にしがみついて枯れゆく姿など見苦しい。生も死も、全て受け入れた桜の姿こそ人間が見習うべきなのだ。」


弓月が言葉を言い切ると同時にゴンッと音がした。
ダウンしたらしい。
弓月のおでこが机とくっついている。

酒に弱いくせに、何故酒を呑むのだろうか。


「はい、親子丼です。弓月の分も食べちゃってください。」


卵と醤油の香ばしい匂いを放つ親子丼をまだ酔いつぶれていない客の前に置く。
客はいつも通り藍のことを睨んでくる。
藍ももう慣れてしまったので軽く無視する。


「ほら、弓月起きて。」


カウンターで突っ伏している弓月の肩を揺する。
ゔーっという弓月の寝言が聞こえた。

こんなので、うちの銭湯は大丈夫だろうかと藍は思いながら弓月を運んだ。





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