anjel








でも、みっくんの顔には、


安心したような、ほっとしたような表情はなかった。


むしろ、どこか不安そうな顔をしている。


「みっくん…?」


私まで不安になり、思わず名前を呼ぶ。


「…悩んでいるんだ、心臓移植を受けること」


みっくんの言葉に、みんなが息を飲んだ。


「日本じゃドナーが少なく、心臓移植をしたくても出来ない人が多いのが現状なんだ。だから、手術するとしたら、少しでもドナーの多い、アメリカに行くと思う」


「…アメリカに行くのが嫌なのか?」


翔の言葉に、みっくんは首を振る。


「アメリカに行くのは、嫌じゃない。それでドナーが見つかって、助かるならいいんだ。」


「なら…」


「でも、その手術を受けて、自分が自分じゃなくなるのが嫌だ」


どういう、こと?


自分が自分じゃなくなるって……


「よく、聞いたことあるでしょ?心優しい青年が、凶悪な殺人犯の心臓を移植して、同じく殺人犯になってしまったって話。」


それなら、私も聞いたことがある。


そんなバカな、なんて思っていた。


「作り話だろ?そんなの…」


亮くんの言葉に、私も頷く。


「俺も、そう思ってた。でも、実際心臓移植を受けて、記憶転移……ドナーの趣味嗜好や習慣、性格の一部、さらにはドナーの経験の断片が自分に移ったってケースがあるみたいなんだ。」


「うそ……」


「本当、嘘みたいな話でしょ?でも、本当らしい。科学的に証明されているわけじゃないんだけど……。俺も、心臓移植をして、バンドのこととか忘れて、ギターを弾かなくなるかもしれないって思ったら、簡単に受けたいなんて言えなかった」


みっくん………










< 569 / 600 >

この作品をシェア

pagetop