教師Aの授業記録
「風邪の為休む、と書いてありました」
矢を再び制服のブラウスの中へしまいながら言う。
田中は半眼になって息を吐く。
「はっ。あんな意味不明な馬鹿な奴でも風邪をひくものなんだな」
と言うと、
「…………」
どういうわけか圧力の有る無言。
山下絵里が田中を睨むように見ていた。
「な、なんだよ」
いつもと違う様子に、田中は少したじろいだ。
「いえ」
机の上に広げていた雑誌のページをぺらりと捲る。
「そうやっていつも減らず口を叩く癖に、毎日欠かすことなくここに来ることを不思議に思ってまして」
開いたページに目の痛くなるほどの英字がぎっしり詰まっていた。
端にはなぜかDNAの塩基配列の図が載っている。
しかし彼女はそれらに目を通すことなく、田中を見上げたままだった。
「……外見によらず真面目なんですね」