教師Aの授業記録
田中は目を見開いたまま、動きを止めた。
頭の中に、彼女の言った言葉が上手く入ってこなかった。
「……えーっと。悪いがもう一回言ってくれる?」
山下はやはり表情も変えず、平坦な口調で答えた。
「あの人は私の兄です。
あの人と私は、もちろん父も母も同じ、血の繋がったれっきとした兄妹なんです」
「………」
田中は仰天の字のごとく、天を仰ぎ、驚愕のあまりにそのままひっくり返りそうになっていた。
山下は、ひたり、とそんな田中を見据えていた。
「…おや。
あなたって人は本当に鈍いんですね。
普通の人なら気付くと思ったんですけど」
「…気付くとしたらそいつはエスパーの力を持ってるよ。
全然似てねーじゃねぇか」
田中は驚きから抜け出せずに言った。
というか未だ信じきれていない。
「無論、あの人は宇宙人でも金星人でも未来人でも何でもありません。
ただの普通の人間です」
「…いや。それは最初から分かっていたけど」
「ちなみに言うならば、あの人の名前は山下大地。
…見たいというならそれを証明できるものも持ってますよ」
そう言うと、免許証らしきカードを取り出した。
彼女の言った通りの名前と教師Aの顔写真が載っている。
「…なんでそんなの持っているか知んねーけど、もういいよ」
とりあえず田中は頷くしかなかった。