散華の麗人
翌日、一正は城の上から辺りを見下ろしていた。
表情はいつもと変わらず、楽しげだ。

「陛下!」
怒ったような声がする。
「……こんなところで油売ってないで、祭の準備を手伝って下さい。」
風麗が後ろから声を投げ掛ける。
一正は溜め息を吐きながら振り返った。
「大体、こんなふざけたことを言い始めたのは貴方ですからね!」
「一応、理由くらいあるぞ。」
言い訳をする子供の様に言った。
「理由?」
(あるようには見えないけど……)
風麗は首を傾げた。
一正は急に、真剣な表情をする。
「此度の戦……民を巻き込む可能性がある。」
「陛下!それは、我が国が圧されるということですか!?有り得ません!」
風麗は反論する。
「万が一や。当然、わしは圧勝するつもりで万全の策を練ってある。」
そう言って、一正は農民が住んでいる方角を見た。
「せやけど、もし、そうなれば、民は戦へ駆り出され、悲しみ、村は焼ける。わしは、そうなる前に民の笑顔が見たいんや。」
そう言うと、風麗を見た。
「祭りだったら、皆笑うやろ?」
一正は眩しい程に笑った。
「……」
「そんなに恐い顔すんな。あくまでも可能性や。」
そう言って笑い、下を見下ろした。.
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