散華の麗人

愛と認識

暫くの沈黙の後に今まで黙っていた茶々が口を開いた。
「お互いに、と言いましたよね?」
「あぁ。」
一正は頷く。
「では、何故八倉殿は当主殿を憎んでいるのでしょう。彼には恨む理由がないかと存じます。」
茶々は言う。
時雨は静かに目を細めて聞いている。
「遊女との間の子とはいえ、三男として養子に八倉家へ迎えている。この処遇は寧ろ良いものです。……家庭内暴力かとも考えましたが、それがあったような雰囲気は会話から伺えませんでした。」
「家庭内暴力ではない。それは間違いなく言えることや。」
一正は茶々の憶測を否定する。
「あいつは雅之が居ないもののように扱い、認識せざるを得ない時に道具という物として扱う。そういう奴や。」
「理由はなくとも、憎まなければならないこともある。」
一正が話終わった瞬間に時雨が言う。
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