散華の麗人
一正も知らない様子だ。
「そして、もう1人は私の兄だ。」
風麗は言う。
「直接は見たことないが、話によると名前は“陽炎”というらしい。だが、生まれてすぐに親戚をたらい回しにされ、傭兵として売買されていたという。」
そう言うと溜め息を吐く。
「仮にあいつが奏国に雇われていたといってもおかしくはないが……初めてという言葉が引っかかる。」
「あんたになりすましていた、とか?」
「その利点がわからない。」
風麗は一正に問う。
「隠密が中心ならば、それ以前の活動が認識されていないという可能性もある。もっとも、真相は奴しか知らない話なのだろうな。」
そう言うと風麗は睫毛を伏せた。
「ともかく、この状況では分城足軽部隊にあの胡散臭い軍師。そして、周辺に敦賀や松内といった現国王派の輩を集め、いざという時に備えるべきだ。」
雅之は風麗を一瞥して言う。
「わしもそう思う。……かなりの情報が向こうに漏れているようだしな。」
「これ以上の漏洩は破滅的だ。」
「せやな。」
一正は唸った。
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