散華の麗人
もう隠すこともないと諦めた様子でもあった。
「あんたの予想通りかは知らないが、俺は奏国王。……戦中に逃げた愚か者さ。」
「元賞金首、か。」
「今やもうこの首に価値はない。」
自嘲する柳に雅之も嘲笑を浴びせる。
「傭兵になれそうな実力であるのに何故用心棒なのか。という疑問も納得だ。」
戦いのみに専念する用心棒と違い、傭兵であれば王に仕えることも出来る。
世間的には用心棒とは謂わば雑用係だ。
「傭兵、ねぇ……。国家が嫌いで、戦争のたびに駒にされる兵士や傭兵には絶対になりたくない。」
「武芸の腕は生かしたかったから、国ではなく個人の為に戦える用心棒を選んだ。といったところか。」
「凄い洞察力だな。それとも、それもあんたの情報網か?」
柳は雅之を見る。
雅之はそれに答える気はない。
「……そんなわけで、俺は用心棒やりながらあちこち旅をしている。今の主もその中で知った者だ。あの人が何者かは知らない。だが、生き別れの大事な人を探しているらしい。あの人自身も相当の実力を持っている。寧ろ、用心棒を雇っている理由が解らないくらいだ。」
答えを強要するでもなく柳は言う。
「生き別れの大事な人の為に散華の麗人を狙っているのか、それとも散華の麗人がその大事な人か。」
「さぁな。言っとくけど、あの人の素顔さえ見たことがない。いつも何かで顔を隠している。」
「自分の主の癖に知らないのか。」
「生憎、用心棒でね。」
“ただの雑用係さ”と柳は笑う。
ふと、その背後から足音がした。
「おやおや。」
その声音は中性的でどこか聞き覚えがある声だ。
「仲が良いことで。……ふふ、愉快だね。」
面白そうに言うと姿を現す。
柳は声に反応したのか直ぐに跪いた。
そして、視線を上げて驚く。
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