散華の麗人
自室に戻ると、政務に向かう。
隠居の身でできることをやるという気持ちだが、秀尚には恐らく“王位の座を奪うつもり”と取られるだろう。
雅之は忠告した。
「程々にせねば痛い目にあうぞ。」
一正は言う。
「民のための世の中。それを目指す気持ちを捻じ曲げるつもりはない。」
咳混じりに答える。
やはり、焦っている。
雅之には最近の一正がまるで、死に急いでいるようにも見えた。
生き急いでいるのかも知れない。
どちらにせよ、同じことだ。
「馬鹿が。」
苛立つように吐き捨てる。
生きていて欲しいと願うのは、何も自分だけではない。
(……)
思考を止め、前を見据える。
襖が僅かに空いている。
そこから差し込む光。
それが段々と小さくなる。
もうじき日が暮れる。
「そこまでにしておけ。いい加減にしないと、握り飯をぶつけるぞ。」
半ば強引に一正の政務を中断させた。
そして、笠を被り、夕餉の支度が出来たと告げる侍女の所へ一正を投げるように押し遣った。
傭兵とは思えない態度に見た人は面食らっていたが、一正の態度を見れば仕方ないというような納得の表情をしている。
「あんた、ほんまに容赦ないなぁ。」
一正は苦笑しながらも雅之に従う。
そうしなければ、自分の身が持たない。
(……いろんな意味で。)
そうして、その日は就寝した。
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