彼氏が犬になりまして
「オトコらしいんだか、オトコらしくないんだか……」
「ん?何か言った?」
「なんにもー」
赤くなっているだろう顔を隠したくて、背を向けて机の横のバッグを手に取った。
「ねぇ、やっとコントロール出来るようになったんだから、外に出掛けない?」
「お、そうだな。昼時だし、何か食べに行くか」
すっと犬耳と尻尾を引っ込めると、フードを被った。
「かぶるの?」
「用心」
耳が見えなくても、尻尾が見えたら意味ないと思うんだけど……まぁ、いっか。
本人がそれで安心するなら、何も言うまい。
「じゃあ、行きましょ」
二人で部屋を出て、玄関に向かう。
「お母さーん、お昼食べてくるねー」
「朝帰りはダメよ~」
「普通に暗くなる頃には帰ってくるってば!」
「お邪魔しました」
「優輝くん、またいらっしゃいね~」
「はい。是非」
「んもぅ!早く行くわよ!」
どうしてこうもアタシの母と優輝は馬が合うのか……まったく。
優輝の手をグイグイ引いて外に出る。手をつなぎなおして並んで歩き出した。
こうして手をつないで歩くのは、恋人になる前、幼なじみとして過ごしていた幼少期からの習慣だ。
とは言え、幼少期から互いの母親が『あなた達はイイナズケなのよ?仲良くね』なんて言うものだから、お互い意識はしていた。
優輝のことは好きだったし、異論はなかったけれど、『イイナズケだから』というのがイヤで、『好きならちゃんと告白して!』と言ったのがついこの間ーー高校に入学した春のことだ。