T&Hの待望
「なんだ?」
「なあにぃ~?」
見事にステレオ放送を披露した後、悠一は立ち上がって弟を睨む。
「ここでの黒川は俺だ」
「いや俺も黒川だもん」
今の返事は正しいし声質音量満点評価!
付け加える弟に、眼光の鋭さを増す兄である。
兄弟喧嘩に勤しむ2人に向かって、廊下の男子生徒は更に続けた。
「三笠が呼んでんだけど~」
はい?
兄弟は直ちに停戦を交わし。
顔を見合わせて、好きな方向に首を傾げた。
それは正に話題の人物の名前。
「さあ~」と首振る弟を一瞥し、悠一は徐に廊下を仰ぎ見る。
そこには確かに、金曜日自分を生徒会室に呼び込んだ、古風な顔立ちの女子生徒が立っていた。
遠慮がちに佇み、教室中の視線が黒川兄弟から自分に移り変わった事に多少怯えた様子だ。
その脇で、ニヤニヤしながらクラスメートが悠一を伺っていた。