恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
なんで、そんな顔するの。
怒ったっていいから、いつもみたいに堂々と飄々としてて。


彼の泣きそうな顔を初めて見たから。
私が傷つけた事実が怖かった。


気持ちが痛くて
掴まれた二の腕が、よじれるように痛くて。



「俺が好きだって言っても、信じようともしないくせに。なんで他人の意見には直ぐに流されんだよ…!」



がたん、とテーブルが音を立てた。


足の脛を、テーブルのどこかにぶつけたからだ。
痛みに息が詰まった。


人が、ある日豹変することを、私は知ってる。
想いが強ければ強いほど。


だけど、笹倉は大丈夫だと思ってた。
彼は、私を好きなわけじゃ、なかったからだ。


それなのに。
引き倒される一瞬、涙を見た気がした。


だから逃げなかった。
この先痛みしか伴わないとしても。


床に倒れた時にぶつけた右肩が、痛かった。
ずりずりという、後頭部の髪が床に擦れる音がやけに耳についた。


初めて、彼の感情を受け止めてる気がして心が痛くて。


私の首筋が今濡れているのは、きっと彼の唾液だけではないように思えた。

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